読書

和田光弘『植民地から建国へ』

和田光弘 (2019)『植民地から建国へ: 19世紀初頭まで』(シリーズ アメリカ合衆国史①) 岩波新書. 同シリーズの第3巻が面白かったのと,アメリカ建国期の歴史に多少興味があって読んだ.第1章ではベーリング陸橋を介した人類の移住から説き起こして,先住民世…

フアン・ルルフォ『ペドロ・パラモ』

フアン・ルルフォ (1992)『ペドロ・パラモ』杉山晃・増田義郎訳,岩波文庫. Pedro Páramo (1955).メキシコの小説.冒頭,母を亡くしたフアン・プレシアドという語り手が,父ペドロ・パラモに会いにコマラという町を訪れる.だがペドロは既に死んでおり,フ…

アンナ・カヴァン『アサイラム・ピース』

アンナ・カヴァン (2019)『アサイラム・ピース』山田和子訳,ちくま文庫. Asylum Piece (1940).表題作のほかに幾つかの掌編を収める.掌編はすべて一人称形式であり,ほぼすべてで,語り手が何らかの途方もない迫害を被る−−審判を宣告され,尊厳を挫かれ,…

魯迅『故事新編』

魯迅 (1979)『故事新編』竹内好訳,岩波文庫. 原書は1936年刊行.標題のとおり故事に取材した寓話集.読んだ覚えがなかったが,読み始めるとあちこちに既視感を覚えたので,少なくとも部分的には再読のようだ. 取材のしかたはさまざまで,一方には雄大なコ…

シルヴィア『論文生産術』

ポール・J・シルヴィア (2015)『できる研究者の論文生産術』講談社. これは大変良い本だった.ためになり,面白く,ごもっともなことしか書いてない.心理学者が心理学的知見に基づいて書いているのもポイント.特に2-3章の内容は拳々服膺したい.修士一年…

ワイスバーグ『科学とモデル』

マイケル・ワイスバーグ (2017)『科学とモデル: シミュレーションの哲学入門』松王政浩訳,名古屋大学出版会. 原著は M. Weisberg (2013) Simulation and Similarity: Using Models to Understand the World, OUP. 科学においてモデルとは何か,何がモデリ…

ヴェーバー『宗教社会学論選』

マックス・ヴェーバー (1972)『宗教社会学論選』大塚久雄・生松敬三訳,みすず書房. M. Weber, Gesammelte Aufsätze zur Regigionssoziologie (1920-21), Bd.1 中の総論的な論文四編を収めた選集.すなわち「序言 Vorbemerkung」「序論 Einleitung」「中間…

鹿子生浩輝『マキァヴェッリ』

鹿子生浩輝 (2019)『マキァヴェッリ』岩波新書. 『君主論』を中心とするマキァヴェッリの入門書.マキァヴェッリの人物像を当時の政治状況とともに簡単に述べた後 (第1章),いわゆるマキァヴェリズムを説く書という『君主論』の通俗的イメージの誤りを指摘…

北杜夫『どくとるマンボウ航海記』

北杜夫 (1965)『どくとるマンボウ航海記』新潮文庫. 1960年刊行.58-9年に船医として調査船に乗り込みユーラシア大陸を周遊したことを記したエッセイ.大半がほら話とやや乱暴な冗談で構成されていて,あげく「われ信ず,荒唐無稽なるがゆえに」と締め括る…

山口輝臣『明治国家と宗教』

山口輝臣 (1999)『明治国家と宗教』東京大学出版会. 明治期 (とりわけ宗教という観念が一定の定着を見た明治10年代以降) の日本における諸宗教をめぐる政策の形成・変容を,その背後にある「宗教」そのものの意味の変化まで見据えつつ,実証的に明らかにす…

森鷗外『近代小説集』第一巻

森鷗外 (2013)『鷗外近代小説集』第一巻,岩波書店. 「うたかたの記」(1890)「舞姫」(1890)「文づかひ」(1891)「ヰタ・セクスアリス」(1909),その他幾つかの小品を収める.前三者は『水沫集』(1892) 所収の短編で,いずれも擬古文体の洋行もの.「舞姫」以…

月村了衛『機龍警察』

月村了衛 (2017)『機龍警察〔完全版〕』ハヤカワ文庫. 初版2010年刊行.近未来日本の警視庁特捜部に設けられた部局 SIPD (ポリス・ドラグーン) による,全貌の見えない組織との暗闘を描く SF 警察小説.キャラの立っている登場人物たち,キャッチーな台詞回…

土橋茂樹 (2019)『教父と哲学』

土橋茂樹 (2019)『教父と哲学: ギリシア教父哲学論集』知泉書館. 著者が 1995-2018 年に発表した教父関連の論考・書評を集成したもの.三部からなり,第I部「カッパドキア教父研究・序説」はとりわけ三位一体論 (「三一神論」) の成立過程をその根本概念で…

アンナ・カヴァン『氷』

アンナ・カヴァン (2015)『氷』山田和子訳,ちくま文庫. 原書 Ice は 1967 年初刊.おそらくは核兵器の使用を原因として氷河期が到来しつつある地球を舞台とする.極地から熱帯域めざして迫りくる氷,およびそれが国々にもたらす政治的混乱と暴力の連鎖,が…

宮本編 (2018)『愛と相生』

宮本久雄編 (2018)『愛と相生: エロース・アガペー・アモル』教友社. 2017年のシンポジウムを元にまとめられた論文集.ギリシア教父 (オリゲネス,ニュッサのグレゴリオス,エイレナイオス) を扱う論考二篇,およびアウグスティヌスのテクストを「愛」の側…

バルザック (2012)『サラジーヌ 他三篇』

バルザック (2012)『サラジーヌ 他三篇』芳川泰久訳,岩波文庫. 「サラジーヌ」(1830)「ファチーノ・カーネ」(1836)「ピエール・グラスー」(1839)「ボエームの王プリンス」(1839-45) の四作を収める. 生と死,若さと老い,女と男,過去と現在,イタリアと…

E. H. ノーマン (1986)『クリオの顔』

E. H. ノーマン (1986)『クリオの顔: 歴史随想集』岩波文庫. カナダ人外交官・日本史家ハーバート・ノーマン (1909-1957) の小論集.歴史と歴史叙述全般についての二,三のエッセイ,1948年に慶応大学で行われた 'self-government' と言論の自由についての…

池上俊一 (2018)『フィレンツェ』

池上俊一 (2018)『フィレンツェ: 比類なき文化都市の歴史』岩波新書. 最近マキァヴェッリ『フィレンツェ史』についての論文を読んで,フィレンツェ史そのものにも少し興味が湧いたので,最近出た新書を読んでみる.古代から現代に至るまでの通史であり,特…

津上英輔『「危険」な美学』

津上英輔 (2019)『「危険」な美学』集英社インターナショナル新書. 美の追求という一見して有益・無害に思われる行為のうちに,知性 (知) と理性 (意) の働きを停止させるはたらきがある,と指摘し,これを幾つかの例によって証示しつつ,これを説明する枠…

高津『比較言語学入門』

高津春繁 (1992)『比較言語学入門』岩波文庫. 最近ギリシア語方言の勉強をしていて,これを学ぶ際に基礎となる比較言語学の考え方をもう少し突っ込んで学ぶために入門書を読んでみた.共通基語の再建という作業の限界と,その限界内でなしうることとが解説…

安丸良夫『近代天皇像の形成』

安丸良夫 (2007)『近代天皇像の形成』岩波現代文庫.(初版: 1992年,岩波書店.) 近世初期から筆を起こしおおよそ明治期までの天皇像の変遷を,様々なアクターの宗教的理念や生活態度をトータルに見ながら追っていく歴史書.とりわけ「天皇制」という視角か…

石井雅巳『西周と「哲学」の誕生』

石井雅巳 (2019)『西周と「哲学」の誕生』堀之内出版. 西周の入門書.3章からなり,各々,(1) 高名な「哲学」などの訳語創出のプロセス,(2) ひらがなやローマ字の推奨論・言文一致論,(3) 官僚としての仕事,を扱っている*1. *1:なお 1-2 章は以下の論文…

中野耕太郎『20世紀アメリカの夢』

中野耕太郎 (2019)『20世紀アメリカの夢: 世紀転換期から1970年代』(シリーズ アメリカ合衆国史③) 岩波新書. 20世紀初頭から1973年までのアメリカ史.この時期のアメリカにおける「社会的なもの」への意識の高まりと,社会改革の実現に絶えずつきまとった両…

デュルケーム『社会学的方法の規準』

エミール・デュルケーム『社会学的方法の規準』菊谷和宏訳,講談社学術文庫,2018年. 1895年の著作.『社会分業論』以後,『自殺論』以前.「社会的事実」を適切に取り出して分析できる科学的方法がまだなく,これを編み出さなければならない,という問題意…

R. タック『トマス・ホッブズ』

リチャード・タック『トマス・ホッブズ』田中浩・重森臣広訳,未來社,1995年。政治思想史家によるホッブズの入門書。OUP の Past Masters シリーズの一冊として刊行され,後に VSI シリーズで再版されている。コンテクストとしての人文主義とメルセンヌ・サ…

上野修『スピノザ『神学政治論』を読む』

上野修 (2014)『スピノザ『神学政治論』を読む』ちくま学芸文庫。 『神学政治論』(TTP) の入門的解説書。3部構成。第I部は「思考のエッセンス」シリーズからの再録で,独立した解説になっている。第II部は詳細な各論,第III部は現代思想 (アルチュセール,ネ…

ボルタンスキー,グルニエ『クリスチャン・ボルタンスキーの可能な人生』

クリスチャン・ボルタンスキー,カトリーヌ・グルニエ (2010)『クリスチャン・ボルタンスキーの可能な人生』佐藤京子訳,水声社。 国立新美術館の回顧展に前に行った一ヶ月ほど前に,いわば予習のつもりで読み始めたのを半分ほど読みさしにしていた。キュレ…

5-7月に読んだ本

5月 奥村隆 (2014)『社会学の歴史I: 社会という謎の系譜』有斐閣アルマ。 原武史 (2019)『平成の終焉』岩波新書。 山内志朗 (2003)『ライプニッツ: なぜ私は世界にひとりしかいないのか』NHK出版。 日本歴史学会 (2019)『日本歴史』第853号。 G. W. ライプニ…

ヴォルテール『寛容論』

ヴォルテール『寛容論』中川信訳,中公文庫,2011年。 1762年のトゥールーズで,ある新教徒が子殺しの冤罪で処刑され,残る一家も離散の憂き目に遭った。被害者の姓を取って「カラス事件」と呼ばれるこの迫害に対して,ヴォルテールは名誉回復の運動を起こす…

盛山ほか『社会学入門』

盛山ほか編著 (2017)『社会学入門』ミネルヴァ書房。 社会学の教科書。良書だと思う。社会の諸側面を切り出す形でトピック別に章立てされており,「〇〇 (の) 社会学」についての各々の専門家による要を得た記述を読むことができる。