野本和幸 (2003)『フレーゲ入門』
副題が示すとおり伝記を兼ねており周辺的事情が詳述される (「イエーナ大学監督官の影響力」(5.2) なる節まである).したがって叙述は概ね時系列順.哲学的内容に入るのは7章以降だが,ごく圧縮されており正直なところしばしば理解が難しかった.とはいえ断片的にはいくらか新たに学べたことはあった:
- 「アプリオリ」「アポステリオリ」に関するフレーゲの区別はもっぱら正当化に関わるが,これはカントの区別とは異なることを意味する.判断の内容に関する区別ではなく,ゆえに認識の拡張とは無関係だからだ (pp.73-74).
- フレーゲは文 A と「A は真である」の思想を同一としたが,これはデフレ主義ではない: 述語「真」の意義は思想の恒等写像である.『基本法則』でも真理条件は意義と関連させられている (pp.157-158).
- 「「同一の思想が,ある分析の場合には単称的,別の場合には特称的,第三の場合には,全称的として現れることも不可能ではない」(BG. 199-200)」(p.165).
伝記的事項には別に関心があったわけではないが読むとそれなりに面白かった.小ネタも色々ある (聴講者に G. ショーレムがいたなど).