安丸良夫『近代天皇像の形成』

近世初期から筆を起こしおおよそ明治期までの天皇像の変遷を,様々なアクターの宗教的理念や生活態度をトータルに見ながら追っていく歴史書.とりわけ「天皇制」という視角からすれば国学を扱う第4章「危機意識の構造」以降が本論ということになるのだろうと思う (が,第3章までの議論をよく飲み込めていないだけかもしれない).幕末期については (5章) 尊攘派の異様な,ないし有り体に言えば単なる妄言と見える言説のうちに,天皇を利用する冷徹なマキァヴェリズムを見出し,これを明治期の「エタティスト」と通底する態度であると指摘する.明治期については (6-8章),上には開化のシンボルとしての天皇制があり,下には時にこれに対抗するコスモロジーがある,という大きな図式のもとで,様々な宗教意識の態様を描き出している.