和田光弘『植民地から建国へ』

同シリーズの第3巻が面白かったのと,アメリカ建国期の歴史に多少興味があって読んだ.第1章ではベーリング陸橋を介した人類の移住から説き起こして,先住民世界に簡単に触れた後,新大陸の「発見」と植民地の形成過程を叙述し,次いで第2章で大西洋世界における人・物品・貨幣の流通システムとその中での新大陸の植民地の位置づけを示す (本書では貨幣などのモノから歴史的事情を読み解く作業が一貫して行われている).第3章でアメリカ独立革命に大きく紙幅が割かれた後,第4章で対イギリスの1812年戦争までの政治の帰趨を論じて締めくくられる.

様々なポイントのある本だが,「国民国家としてのアメリカが,いつ,どのように生成したのか」という問いは重要なものの一つだろう.まず著者曰く,「〔…〕早期のアメリカ人意識の成立を前提に,あたかも熟した実が枝から自然に落ちるかのごとく革命を説明するかつての論は,正鵠を射ているとは言いがたい」(100頁).例えば印紙法の導入 (1765) に対して植民地人たちは当初「有益なる怠慢」への復帰を求めたに過ぎず,この慣行は植民地エリート層のイギリス人意識を支えるものだった.アメリカ人としてのナショナル・アイデンティティは,むしろ革命の動きのなかで事後的・人為的に生成されたのだという.「建国神話」の中枢をなすベッツィ・ロスの逸話の生成過程 (141-150頁) も興味深い.