宮本編 (2018)『愛と相生』

  • 宮本久雄編 (2018)『愛と相生: エロース・アガペー・アモル』教友社.

2017年のシンポジウムを元にまとめられた論文集.ギリシア教父 (オリゲネス,ニュッサのグレゴリオス,エイレナイオス) を扱う論考二篇,およびアウグスティヌスのテクストを「愛」の側面から読み解く論考三篇を収めるほか,前後に山本巍によるプラトン『饗宴』考,山本芳久によるアクィナスの説教 (というものが残っており,最近 edition が出たらしい) に関する論考が配されている.

読んでもわからんだろうという先入観も正直なところ手伝って,とりわけギリシアの教父思想にはこれまで全然触れてこなかったのだけど,神化思想を扱った本書所収の二論文−−土橋茂樹「エロース欲求エピテュミア: オリゲネスとニュッサのグレゴリオスの『雅歌』解釈をめぐって」*1,袴田玲「身体への愛は語りうるか: エイレナイオス『異端論駁』における「肉の救い」と東方キリスト教における身体観」−−は興味深く読むことができた.土橋論文は,あくまで理性的に示唆しうる限りで『雅歌』における「花嫁と花婿の交わり」のもつ霊的意味を説くオリゲネスと,幾つかの側面で彼の影響を受けつつ,『雅歌』が語る聖域を『雅歌』そのものと同一視し,これに参入するため議論をあえて謎めいた否定神学的な領域に移すグレゴリオス,という大きな構図を描いている.袴田論文は,東方キリスト教思想の本流をなす「ソーマはセーマである」式のプラトニズムの傍らに,身体もまた神化に与るとする潮流があり,キリスト教の最初期において,グノーシス主義との対決のなかでこれを明確に定式化しえたのがエイレナイオスである,と論じる.

*1:未完.おそらく最新版が土橋 (2019)『教父と哲学』に収録されているが,未見.