1月に読んだ本

月単位くらいで記録を残しておきたい.

  • 田中拓郎『形式意味論入門』開拓社,2016年.
    • Heim & Kratzer (1998) という有名な教科書があって,それのあんちょこらしい.統語論の知識を前提としてラムダ計算は一から導入という方針の本で,個人的にはむしろ統語論の知識がないので渡辺明生成文法』を横目に見ながら読んだ.タイプとして個体 e と真理値 t をプリミティヴに取り,文の意味として対応する関数を部分木に割り当てていくという発想で自然言語の意味を分析していく.現代言語学で量化子の取り扱いが (モンタギュー以後) どうなっているかといった話題もあり興味深かった.
  • 三浦篤『まなざしのレッスン 1 西洋伝統絵画』東京大学出版会,2001年.
    • 歴史画からの分化という歴史的過程に沿って,18世紀までの様々なジャンルの伝統絵画の見方を実践的に示す教科書.借りて読んだけれども手元に置いておきたい本.
  • ウェルナー・マルクスアリストテレス存在論」への導き』東北大学出版会,2020年.
    • 原書は 1972 年刊行.著者はフライブルクの教授であった人らしい.Krämer や Happ などが最新文献として引かれており,当時のドイツの研究状況が伺える (一方で例えば Owen の仕事は全く参照されていない).特に存在論-神学関連の解釈史が手際良くまとめられている第三部は勉強になった.
  • ヴィトルド・ゴンブロヴィッチ『ポルノグラフィア』河出書房新社,1989年.
    • 1943年のポーランドを舞台に,二人の中年 (語り手ゴンブロヴィッチと,フレデリクという男) が旅先で知り合った一組のうら若い男女 (ヘニアとカロル) を何とかしてくっつけようとするという筋書き.語り手は互いに好意を表しているわけでもないカップルに奇妙な結びつきを見出し,自覚的に偏執的な文体でその描写を連ねる.やがてフレデリクがこの妄想を具体的な策謀へと仕立て上げる.話が進むにつれて語り手の過剰とも思える意味づけ通りに出来事が成就してゆき,カロルによるヘニアの許嫁の殺害によって物語は幕切れとなる.――とまとめると陰惨な感じもするが (そして実際明るい話ではないけれども),読み終えてみるとそれほど後味の悪い小説ではなく,むしろ不思議な爽快感すら残る読書だった.2003年に映画化されているらしく,どんな映像になっているのか興味がある.