哲学のタレス起源説の問題 Cantor (2022) "Thales - the 'first philosopher'?"

  • Lea Cantor (2022) "Thales – the ‘first philosopher’? A troubled chapter in the historiography of philosophy" in British Journal for the History of Philosophy 30(5): 727-750.

序論

1. タレスに関するアリストテレス以前の見解

2. アリストテレスと哲学の「諸起源」

  • アリストテレスの場合も,以下の理由からタレスを最初の哲学者とする見解は帰属できない:
    • 神を論じる人々 (theologians) が重要な仕方でタレスに先行する (cf. Palmer 2000).
    • タレスはあくまで自然学の祖であり,自然学が哲学のすべてではない.
    • (ギリシア・非ギリシアの) 神論と自然学との間に重要な連続性がある (Met. A2; Z8; DC I 3).
    • 哲学的発展を線形なものと捉えないため,そもそも単一の起源を措定できない.

3. 哲学史叙述におけるタレス

  • 自然学のパイオニアとしてのタレスの地位はペリパトス学派の中でも異論無しとしない (テオフラストス (Th 38, 409) vs. ディカイアルコス (Th 237),エウデモス).
  • ヘレニズム期以降は哲学の起源をギリシャ以前に遡らせることが主流である (cf. Boys-Stones 2001).
    • タレスを最初の哲学者とする見解を in propria persona に語るテクストはわずかに ps.-Plut. に (かつ tentative に) 見られるにすぎない; DL さえタレスが最初の哲学者だとは述べていない.
  • 中世・初期近代の哲学史叙述は (DL の強い影響下にあったにも拘らず) ほぼギリシア起源を明言しない.
    • タレスを最初とする最初のヨーロッパの歴史家は Christoph Meiners (1747-1910) である.彼の議論の根底には人種的人類学があった.つづいて Dietrich Tiedemann (1748-1803) と Gottlieb Tennemann (1761-1819) がこれに従い,就中 Hegel がタレス起源説を打ち出した.