『分析論』の写本状況 Detel (1993) Analytica Posteriora, Einleitung, §1
- Wolfgang Detel (1993) Aristoteles Analytica Posteriora.
- Einleitung.
- §1 Zum Text der Zweiten Analytik. 103-109.
- Einleitung.
1.1 写本とその校合
中世・ルネサンス期のほとんどの写本で APr. と APo. は一体である.Ross は 106, Hartfinger は 140 の写本に言及している.An. の最古・最良の写本は9-11世紀の6つの写本であり,これらがたいてい新しい写本より良い読みを示している.実際これらが APo. の古典的な批判的校訂版の基礎となってきた.Bekker, Waitz, Ross の記法では:
- A: Urbinas gr. 35 (9c末-10c初)
- B: Marcianus 201 (955年)
- C: Coislinianus 330 (11c)
- d: Laurentianus 72.5 (11c)
- n: Ambrosianus 490 (以前の L93) (9c)
- c: Vaticanus gr. 1024 (11c)
A と B はきれいな筆跡で APo. 全体を伝える.C の原本は 83a1 で途切れており,12c末-13c初に二人の写字生が共同で・交代で補完している.原本は正確であり,それと比べると後の写字生の仕事は不正確である.d は 11-13c だが,ほとんどのパッセージはごく古い.n はおそらく最古 (ただし Waitz は10c末とする).もっとも 254 葉中 20 葉は 15c の写字生の挿入 (古い筆跡の模倣の痕跡が見られる).c は6つのなかでは最も不完全: APr. は 49a37 から始まっており,かつ 7 葉がごく後代の挿入である.また正確に書いておらず略記法も多用している.
Bekker は ABC のほかに D (Parisinus gr. 1814 (13c)) を用いて C の欠を補っている.彼は A を最良とする.Waitz の校合は最も包括的で上記6つのほか若干の写本を見ており,B を最良とする.Ross 1949, 1957 (= 1964 (OCT)) は Waitz の校合に依拠しているが,ただし c と n を写真から新たに校合し,Waitz が誤っていると思った箇所で残りの写本を校合している.つまり本質的には Waitz の改訂版である.
近年 Mark F. Williams が新たに An. の校合と写本分析を発表した (1984).これには新たな批判的本文は含まれていないが,来たるべき新たな校訂版のための重要な前提が与えられている.彼の校合は (Ross に対抗して) c を充分に考慮し,また ncCd の補完や訂正も見比べている.
Ross は c を軽視して ABCdn だけで議論しており,かつステンマを作っていない.彼は第一に,ABCdn 全てがもつ 31a18-49a26 および 69b4-82a2 において,ABCdn に共通の読みが頻繁に見られることに依拠する.Ross によれば,これら5写本のうち,(5通りの) 4写本が同じ読みを示す場合が,2-3写本〔のみ〕が同じ読みを示す場合より多く,またなかでも ABCd で共通する場合は ABCn で共通する場合の二倍である; ゆえに n は信頼できないか,ないしは独立の伝承に属する.Ross によれば,上記箇所では AB が最も正しい読みを示しているが,Cdn もほんの僅かにしか劣らない.だが An. 全体では A は 4 箇所,B が 14 箇所,C が 18 箇所,d が 9 箇所,n が 89 箇所で正しい異読を示している.したがって,Ross によれば:
- n は独立の価値ある写本伝承を代表している.
- ABCd は共通の系統に属し,B が最も価値がある.
- ゆえに B と n が最重要の写本である.
AB が最も信頼できるが他も悪くない,という点は Williams も同意する.だが彼が正しく指摘する通り,Ross 解釈の価値は以下の点で限定的である:
- 31a18-49a26 および 69b4-82a2 だけを基礎としている.
- c を全然考慮していない.
- 共通の読み全般をデータとして用いている.(実際には,写本の関係を推定するうえでは,共通の誤りだけが重要である.)
そこで Williams 1984 は An. 全体に依拠し,c を含めて,誤りのリストから始めて写本分析を行う.そこから明らかになることとして,まず共通の誤りに鑑みても B グループ (ABCd とそれらの諸訂正) と n グループ (n とその諸訂正) に分かれるという Ross 説が正当化される.誤りの多くは大文字から小文字に書き換えた際の書き損じとして理解できる.それゆえ本文が二つの独立な伝承 β, γ (と Williams が呼ぶもの) の〔各々の〕うちで書き換えられたことになる.もっとも B と n は他の写本にない共通の誤りを 41 箇所示しており,少なくともそのいくつかはおそらく書き換え前に生じた混乱である.このことは共通の原本 α が存在する一定の証拠となる.
C には B グループとも n グループとも同じくらい共通の誤りがある.ゆえに独立の第三の伝統ではありえない.むしろ β と γ がどこかの時点で校合され組み合わされて本文 δ になり,C やその近縁の写本になったのである.
B グループのなかでは B が最も誤りが少なく,平均2葉に1箇所だけ.このことは写字生 Ephraim の几帳面さと原本の質の高さを示す.A は B よりは誤りが多く,したがって独立の資料 ζ に遡る.d は B と誤りが共通し,A とはなお共通する.ABd グループには共通の誤りが相当に多い.したがって以下のステンマが描ける.
だが補完や訂正を考慮するとさらに複雑になる:
- n2: n の第 80-89 葉における模写 (15c) (-31a18),ないし当の模写者による訂正 (31a18-).
- c2: c の 1-7v (49a37 以前) における補注,ないし (より後の) 訂正 (49a37 以降).
- C2: C の補完 (82a2 以降),ないし補完者による訂正 (82a2 以前).
- d2: d の欠落の補完,ないし補完者による (非欠落部分の) 訂正.
C と n2 は9つの共通の誤りがあり,共通の資料 δ に遡ると推定される (Williams の ι).
n には明らかに小文字写本の書き換えに由来しない誤りが存在する.ゆえに n の書き換え段階 γ と n 自体の間に η が想定される.そのうち 25 個は C2 と共通.それゆえ n と C2 は η でつながっている.他方で別々の誤りもあり,ゆえに C2 は λ に依存する.d2 には n と共通の誤りと別々の誤りがあり,ゆえに C2 および n と似ている.また C2d2 で共通の誤りもあり,このことは C2 と d2 が λ でつながっている一定の証拠になる.
c は C, n, C2, d2 と誤りが共通する.数はすごく多くはないが,総じて c と η が資料 κ で見比べられ1 κ から c が出てきた証拠になる.他方 c 固有の誤りもあり,κ と c の間に μ がありうる.
ゆえに最終的なステンマは以下の通り.
したがって Ross の描像は単純すぎる.n は固有の系統を代表しない.n はむしろ, C2 と d2 の密接な関係,および C と c の重要な関係を示している.したがって異なる写本系統には ABd, Ccn2, nC2d2 の三つがあることになる.これらが δ と κ で互いに結びついている.
δ や κ での接続はおそらく,かなり初期に重要な本文伝承の校合へと導いた学問的関心に由来する.Ccn2 も無視されることなく検討されたのである.
本書の翻訳は Ross 1957 のテクストと Williams 1984 の校合に基づく.
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と書いてあるがよくわからない.↩