アリストテレスの「体系」を仮定する正当性 Delcomminette (2018) Aristote et la nécessité, Intro.

  • Sylvain Delcomminette (2018) Aristote et la nécessité, Vrin.
    • Introduction. 11-19.

  1. 本書ではアリストテレスにおいて哲学と必然性の結びつきが存在することを示す.必然性概念を中心に,アリストテレス思想の大部分 (本書は政治学,弁論術,詩学は扱わない) を再構築できる.
  2. とはいえ,そうした再構築が可能かは決して自明ではない.必然性概念の役割は分野によってバラバラ (D. Frede 1985).
    • それでも,アリストテレスの考えでは,必然性概念は諸領域の橋渡しをする (Δ5).そこでさしあたり,アリストテレスが混乱しているわけではないという方法論的仮定を置くことにする.
  3. アリストテレスの学内著作の整合性の問題 (cf. 発展史仮説) に関しては,不整合を仮定することも,整合性を仮定することもできる.後者のほうが (困難をきちんと認識し解消する限りで) 哲学的に実りがあるため,後者を選ぶ.
  4. 発展史説とは別に,体系的解釈は思想を若干の原理に還元し貧相にすることだという異論もある (Bodéüs 1986).
    • だが,これは想定している「体系」理解が貧しすぎる (Bodéüs が引くカントもヘーゲルもそんな理解はしていない).むしろ,思想を体系的に再構成するとは,思想を活気づけるこころ (cœur) を見出そうとする動的な営みである.
    • 著作の多数の相互参照 (cf. Bonitz, "Ἀριστοτέλης") もグローバルな整合性の証拠となる.
      • 参照に「先に」「後に」といった語句が加わる場合,これは執筆時期ではなく読解・学習の順序を反映しており,論証の進行 (cf. Couloubaritsis 1980) に従っている.
        • なるほど,グローバルな構成は理想的順序にすぎず,またおそらく後代の介入もある.
        • それでも,参照関係に跡を残す計画を,アリストテレス自身がなぞっていたと考えるべきである.
      • さらに言えば,Bekker 版―中世の版―古代の版―アリストテレスの指示,という影響関係がある以上,Bekker 版の順序がこの計画を概ねなぞっていると考えてよい1
        • それゆえ本書も,〈論理学・認識論 → 自然学 → 形而上学倫理学〉の順で進む.
  5. さらなる方法論的注意二点:
    • 二次文献に英語文献が多いのは現状の反映.アリストテレスの必然性に関する仏語文献は Chevalier 1915 まで遡らねばならない.
    • 様相論理の記号体系は全く,その他の論理の記号体系もほぼ,使わない.解釈上中立的でなく非アリストテレス的な様相理解が紛れ込むおそれがあるから.

  1. 参照関係の話とどう関係するのかよく分からない.