ギリシャ思想における反対項の理論 Lloyd (1966) Polarity and Analogy, Ch.1

  • G. E. R. Lloyd (1966) Polarity and Analogy: Two Types of Argumentation in Early Greek Thought, Cambridge University Press.
    • Part One: Polarity.
      • Chapter 1. Theories based on opposites in early Greek thought. 15-85.

反対項に基づく思弁的諸理論の予備的概観

  • アリストテレスは,彼の全ての先行者が反対項 (opposites) を原理としていると述べる (e.g., Ph. I.5, 188b27ff.).これは全くの牽強付会とは言えない: プレソクラティクスの諸断片にはこれを支持する多くの証拠がある.
    • 宇宙論: アルクマイオン,ピュタゴラス派,アナクシマンドロスパルメニデス (思われの道),エンペドクレス,アナクサゴラス,ヘラクレイトス
      • ヘラクレイトスは反対項の「統一」を述べる点では特異だが,経験的データを反対項の組で分析する点では典型的である.
    • 生理学・魂論・生物学:
      • パルメニデス/エンペドクレス/アナクサゴラスによる子供の性の説明 (子宮の左右,温冷,精液の分泌部の左右).
      • ヘラクレイトスによる「魂」の諸状態の乾湿への還元.
      • エンペドクレスによる水生動物の存在の説明 (「体内の過熱への対処である」).
    • 原子論者は反対項を単に規約的 (νόμῳ) とするが,充実体と空虚の対を用いる点ではこの伝統に列する.(ただし対が異種的である点は要注意.)
  • プレソクラティクスのみならずヒポクラテス論考 (5-4c)も同様である.
    • 例えば熱冷乾湿による宇宙論と生理学 (Nat. Hom., Acut., VM).
      • 健康は反対項の均衡,病は不均衡として説明される.この発想はアルクマイオンを先蹤とする (DK24B4).
      • 反対項の一方が引き起こした病はもう一方によって治癒される.このことは一般原理として定式化されるとともに (Flat.: ἑνὶ δε συντόμῳ λόγῳ τὰ ἐναντία τῶν ἐναντίων ἐστὶν ἰήματα),ここから多くの穏当な具体的勧めが導かれた (e.g., Salubr.).
    • より晦渋な側面として,病における「奇数」日と「偶数」日の重要性,南風/北風の影響,身体の「強い/弱い」「熱い/冷たい」「湿った/乾いた」「左/右」部分が病気の説明に果たす役割,などがある.
      • これらはつねに単なる想像の産物であるわけではない.「左季肋部の腫れは右ほど危険でない」という主張 (Prog.) は虫垂炎へのギリシャ初の言及かもしれない.
  • プラトンアリストテレスの哲学も反対項に基づく.
    • プラトン:
      • イデアと個物.両者は上記の例と違い階層的な違いがある (cf. パルメニデスの二つの道).
      • 生成消滅の説明: 反対項から反対項が (例: 小さなものから大きなものが) 生じる (Phd. 70dff.).
    • アリストテレス: 生成消滅の説明,生物学における熱冷乾湿やその他の反対項の利用.

考察すべき問い.現代的解釈

  • なぜ,病のような複雑な現象と結びつくデータの集積のなかで,とくに反対項の対が原因とみなされたのだろうか.
  • ギリシャの思弁のもつこの特徴は,驚くほど論じられてこなかった.
    • 例外は Cornford, From Religion to Philosophy (esp. ch.2).ここで Cornford は構成要素の理論の起源について示唆を与えている.
      • 見るべき点はあるものの,議論は恣意的な前提に基づいており,Principium Sapientiae のような後の著作はこれに従っていない.
      • Cornford は構成要素概念の起源を,モイラによる区分的整序という「集合表象」に求める.Durkheim & Mauss (1901-2)1 の影響下で,自然の区分という観念の起源を原初社会の社会組織に見出す.とりわけ反対項の使用の原型は性であるとし,性が外婚的フラトリアないし双分組織 (moieties) の背景にある分割原理であることをその論拠とする.
      • Burnet は Early Greek Philosophy で,こうした「宗教的表象」からの導出を不要と論じる.Burnet によれば,エーゲ海の気候では北方よりはっきりと熱冷乾湿の争いが見られ,そこから初期宇宙論者の世界観が生まれたのだとする.
      • Cornford の再構築は純粋に思弁的である.彼自身認めるようにギリシャ社会がトーテム的であった証拠はない.前提される社会の進化理論も憶測にすぎない.また逆に反対項の理論がなぜ普遍的でないのかを説明できない.
      • 他方,Burnet 説も,反対項の理論が近東の他の社会に見られないことを説明できない.
  • なぜこうした理論をもつに至ったかは,むしろ,二元論をもつ他の社会との比較を通じて解明されねばならない.

比較から得られる証拠

  • 現実全体の二元論的分類はよくある.
    • それらはしばしば社会の二元論的組織 (部族の双分組織への分割) を反映している.多くの場合,成員自身が社会を単純に二元論的に記述する (ただし実際の組織はしばしばより複雑である (Lévi-Strauss)).これ自体二元論的認識の一例である.
    • 南米の東ティンビラ族は雨季には 'kamakra' と 'atukmakra' の二集団に分かれる.これが自然の分類の契機となる.分類は性は含まないが動植物は含む (Nimuendaju).
    • インドネシアのアンボン島では,村が二つの部分に分かれ,これが宇宙論的分類と対応する (van der Kroef).
    • ケニアのメルー人も同様の包括的分類を行う (Needham).
    • 北米のミウォック族は水側 'kikua' と陸側 'tunuka' の双分組織に分かれ,自然全体がこれに応じて分類される (Gifford).
    • ズニ族は自然の七分類を行うが,これは三つの対と「完全な中間」からなる.ジャワ人の自然の五分類も東西南北と中心とからなる.
    • 古代中国の陰陽論もここに加えられる.
  • 分類の内容はバラバラだが,アルクマイオンの「人間的な事柄の多くは二つである」やピュタゴラス派の双欄表やパルメニデスの「光/夜」との並行性は明らかである.
  • この並行性はどう理解に資するか.
    • Durkheim 的に社会組織と関連付けるのは難しい.実際の社会組織は複雑であり,またそもそもギリシャ社会の原初的構造については証拠が少ない.
    • 他方,宗教的・精神的区分の象徴として反対項を用いている点はギリシャの理論の理解に資する.
      • Hertz によれば,左右と価値・理念は頻繁に結び付けられる (例: 'right')2.未開社会ではこれが様々な信念や実践に影響する.光/闇,天空/大地,男/女といった対立も同様の象徴的連関を得る.これらは,聖/俗という,原初社会の人々の精神世界を支配する根本的対立構造 (Durkheim) と結びつく.
      • こうした場合,具体的な反対項が抽象的宗教概念を伝える主要な手段となっている.
        • どちらがどちらに対応するかは恣意的である: Hertz 自身認めるように,左右で価値づけが逆転する場合もある (例:ズニ族,陰陽論).
    • ヌアー族 (Evans-Pritchard),メルー人,インドネシア社会の例から,少なくともいくつかの社会において,具体的な双欄表 (Tables of Opposites) が類比的象徴的区別の具現化となることがわかる.その支配的モチーフは,優越した・純粋な・聖なるものと,劣後した・不純な・俗なるものとの,繰り返し現れる対立構造 (recurrent antithesis) である.

初期ギリシャ思想における「宗教的両極性」

  • ここから古代ギリシャの実践一般,および哲学者の思弁の解釈が可能になる.
  • 自然に現れる多くの対立は古代ギリシャの宗教的観念 (Hertz:「宗教的両極性 (religious polarity)」) と結びついている.
    • 天空/大地は,(1) オリンポスと地下の神々の対立,および (2) 不死の神々 (ἐπουράνιοι) と可死の人間 (ἐπιχθόνιοι) の対立に結びつく.
    • 左右は善悪と結びつく.左を表す εὐώνυμος, ἀριστερός は婉曲語で σκαιός は後に悪い意味を獲得する.反対の δεξιός は「賢い」「器用な」の意味をもつ.
    • 男女も価値づけられる.女は劣っているだけでない:パンドラの神話には女が全ての悪の源泉だという含みがある.
    • 光と闇については,光は生と結び付けられ ("ζώει καὶ ὁρᾷ φάος" Il. 18.61),また安全・解放と結び付けられる (Il. 6.6).後に φῶς/φέγγος は様々なよい事柄を指すようになる.夜は様々な恐怖 ("νυκτὶ ἐοικώς" Il. 1.67) と結びつき,ニュクスは ὀλοή という枕詞をもつ (Hes. Th. 224).
  • ここで二つの問いが生じる.
    1. 宗教的・精神的区別の象徴として用いられる反対項の範囲はどこまでか.例えば熱冷乾湿をも含むか.
    2. そうした象徴的対立構造は,どの程度 (人類学者が現代社会について報告するような) 単一の包括的体系をなしていると言えるか.
  • 一つ目の問いについて.
    • 哲学以前のテクストに熱冷乾湿をそれとして重要な構成要素とみなす態度は見られない.
      • 熱冷と乾湿の対にある種の連合はあった.生物学的観点からは,熱-湿は生,冷-乾は死と結びつく.
      • ただし気候からすると夏は熱-乾,冬は冷-湿である.熱冷乾湿に強い正負の価値が割り振られることはなかった.
  • 二つ目の問いについて.
    • 白-上-高さ-オリンポスの神々/黒-下-低さ-地下の神々の二項対立はしばしば見られるが,ホメロスもヘシオドスも明記してはいない.
    • 光-東-白-天空-上の連合は経験的事実に基づくと言える.だが東と右の連合 (Il. 12.238ff.) はそうでなく,象徴的価値により規定されていると思われる.

哲学者たちやその他の人々の思弁的理論における「宗教的両極性」

  • こうした初期ギリシャ思想における宗教的両極性に,哲学・科学理論は影響を受けたのだろうか.
  • ピュタゴラスの双欄表のうち善-男-光/悪-女-闇の位置づけは古い信念を反映している.
    • いわゆる ἀκούσματα も左右や白黒などの象徴的対立を強調する.
    • エルのミュートスにも様々な対立項が現れる (R. 614cf.).
  • パルメニデス,アナクサゴラス,ヒポクラテス論考における身体の左右と生まれる子供の性の関係についての説も,明らかに象徴的連合が作用している.
  • アリストテレスは子供の性については上記の関係を否定している (GA 4.1).だが,同様の先入観から全く自由なわけではない.
    • 彼は右・上・前が次元のみならず生物における場所運動・成長・感覚の ἀρχαί だとしている (Cael. 284b24ff.; IA 705b29ff.).そしてこれらの ἀρχαί はより貴い (IA 706b12f.).
    • またここから器官,食道,腎臓,心臓などの位置を説明する.いわく,心臓は貴いために上部前側についている.左なのは左側の冷たさの釣り合いを取るためである (PA 665a11ff.).ここでアリストテレスは説明原理を放棄することなく恣意的な前提を付け加えている.
    • またいわく,ザリガニ類 (κάραβοι) やカニ類 (καρκίνοι) において右の鋏のほうが大きく強い.そして一般にすべての動物が本性上右肢をよりよく使う (PA 684a26ff.).
      • これについてアリストテレスは例外の存在は認識している (IA 715b8ff.).
      • だが,例外は欠陥として説明される:最も「自然に即した」動物である人間においては,身体の部位は「自然な」位置にある (PA 656a10ff.).
        • つまり,例外の認識は原理を揺るがすことなく,むしろ人間の優越性の証拠とされる.
  • 熱冷乾湿はどうか.
    • 前哲学的テクストにおいて両極性に位置を占めなかった熱冷乾湿は,ピュタゴラス派の双欄表にも登場しない.その他の理論でも,四元素の連続的・均衡的相互作用を論じる理論は,一方の優越を主張しない (例:アルクマイオン,ヒポクラテス文書の Nat. Hom.).
    • 生物論をもとに熱-湿が結びつく場合や,気象論をもとに熱-乾が結びつく場合はある.
    • 他方,熱冷乾湿の詳細な理論には,経験的根拠に一見全く基づかないものがある.
      • 熱冷乾湿と性の結びつきは恣意的である.パルメニデスらは女がより熱いとする.これは熱い血の過剰が月経の原因であるという「根拠」をもつ.だがエンペドクレスはここから反対に男がより熱いと結論する.(PA 648a28ff.)
      • 後者の結論は,経験的データよりは,むしろ男と熱がより優越するという信念に基づいている.
        • Acut. 34:「(a) 食事と (b) 月経ゆえに,男は女より熱く乾いている」.だが (a) は食事と運動の効果のアプリオリな分析に基づき,(b) は明らかにどちらにも使える証拠である.
        • GA 765b8ff.:「女がより熱いという考えは,精液と月経が比較可能なプロセスの最終生成物であり,前者のほうが純粋だということを無視している」.これも経験的証拠よりは女が損なわれた男だという信念に基づく.
    • 熱冷乾湿と正負両極の結びつきに関する最も重要な資料はアリストテレスのテクストである.
      • もっともアリストテレスGC での熱冷乾湿の特徴づけは抽象的で価値づけを含まない.また彼は,何が熱い/冷たいかにつき理論家の間で不一致があることも指摘している.
      • それにもかかわらず,熱のほうが優れていると彼は考えている.
        • 熱は男性,身体の右側 (PA 667a1f.),血の純粋さ (PA 653a27ff.) と結びつく.
      • 他方で,乾湿についての態度は一義的でない.
        • PA 670b18ff. では冷たい身体の左側が湿っているとされる.GA 766b31ff. では女性と湿りが関連付けられる.
        • 他方,GA 2.1 では「より優れた」胎生生物がより湿っているとされ,Long. では生命が本性上湿っているとされる.
  • このように,ホメロスやヘシオドスにおける自然的対立と宗教的・精神的区別との関連は,初期ギリシャ哲学・医学で失われるどころか重要な役割を得て存続しており,哲学者たちはそれを包括的体系に組み入れるに至った.
    • 現代の原初社会の人々がどの程度意識的に体系を形作っているかは評価が難しい.
    • だがギリシャについては,ピュタゴラス派の理論が双欄表をつくる最初の試みだったと推測できる.
    • パルメニデスやエンペドクレスにも同様の体系構築の試みが見られる.
    • アリストテレスは自身の理論を完全な συστοιχία の形で提示することはなかったが,論考からピュタゴラス派のそれに比するものは得られる.またアリストテレス自身この並行性におそらく自覚的である (PA 670b17ff.).

初期ギリシャ思想における反対項に基づいた理論の使用における図式と確証

  • ギリシャの思弁には価値づけと無関係な反対項の利用も見られる.反対項は他のものを関連付ける単純で明快な参照項となる.
    • 例: 民主政/寡頭制,南風/北風,ドーリス的/フリュギア的 (以上 Pol.),若い/盛期の/老いた (Rh. 2.12-14).
  • だが,科学理論は単純明快なだけでなく経験的テストに服する予測を生み出す必要がある.そこで以下が問題になる:
    • ギリシャ著作家はそうした必要にどの程度意識的だったのか.
    • 教説に実質をもたせるためにどのような方法が用いられたか.どのような証拠が用いられたか.
    • どのような批判が提示されたか.
  • 宗教的両極性に対する批判的・懐疑的態度はホメロスから見られる (Il. 12.195ff.).
    • 多くの原初社会でも個々人が宗教的信念に対する懐疑的態度を示すことはある.
  • 哲学理論における熱冷乾湿の批判は,別の反対項に還元するという形が取られる (例:アナクシメネス).
  • 他方,医学における批判はより重要である (VM):「仮説」(hypotheses) は医学からは排除されるべきであり,自然学的理論は検証可能でなければならない.
    • もっとも医学理論自体,必ずしもこの基準を満たしていない.身体における「諸力」の発現の理論 (VM) は同様の批判を被りうる.病が過剰と欠乏から生じるという主張も同様である.
  • 証拠としては以下の種類がある.
    • しばしば語源が用いられる: φλέγμα-φλέγειν (Anonymus Londinensis), ζῆν-ζεῖν ↔ ψυχή-κατάψυξις (DA 405b26ff.).
    • もちろんよりしっかりした証拠が使われることのほうが多い.それでも,多くは決定的でない.
      • 例: 月経と熱/冷の関係 (先述),右肢が ἀρχὴ κινήσεως であるという議論 (IA 712a25ff.)
    • ギリシャ科学は実験をしなかったとよく批判されるが,単純な試験を行うという考えは5-4世紀の著作家に見られる.
      • GA 765a21ff.: 睾丸の切除によって子供の性の決定メカニズムを調べられるという考えへの言及.
      • GA 764a33ff.: 男女の双子が子宮の同じ位置に見られるという解剖学的知見による通説の論駁.
    • より一般的な図式についても,立証が試みられることはあった.
      • Nat. Hom. ch.5: 投薬により四体液を体内から排出させる試験への言及.
      • ch.7: 季節により試験結果が変化するだろうという "μαρτύριον σαφέστατον" への言及.
        • これらの試験は当時の基準においてさえ当てにならないものだっただろう.とはいえ,化学的分析の方法なしにはそもそも困難な問題であったことは念頭に置かねばならない.
      • Carn.: 身体の異なる部位を調理すると,元素によって火の通りやすさが異なるとわかる.
      • Meteo. は自然にあるものの物理的性質と試験への反応に関する現存するギリシャ語文献で最初の詳細な分析である.時代を考えればすごい量の観察をしている.だが現象は一貫して四元素説から解釈される.反対項の教説をもとに試験がなされるが,当の試験はなんら決定的でない.
  • ギリシャにおける理論と証拠の関係について,以下のように結論できる.
    • 注意深い観察・研究の重要性は認知されていた.
    • 証拠を理論に適合させるのにかなりの創意が発揮されたが,ときには観察と実験により特定の理論の棄却に至ることもあった.
    • だが多くの場合,試験は目的に満たないものだった: 理論があいまい・不正確であるか,試験の結果がほとんど価値のないものだった.
      • とはいえ,ギリシャの理論家が探究を試みていた問題のそもそもの複雑さは念頭に置く必要がある.
  • 反対項の理論の優越には多くの要因がある.
    • 多くの目立った現象が二元性を示すこと (昼夜,日の出-日没,季節,男女,左右相称).
    • 自然の二元性に宗教的・精神的カテゴリーの象徴的顕現という意義が付与されたこと.
    • 反対項が複雑な現象の参照枠組みを提供すること.
  • ギリシャの思弁は反対項の価値づけに関する前哲学的信念に影響された.
    • だが象徴的関連とは別に,反対項には抽象的明確さ・単純さの利点があった.
    • 他方,単純さだけでなく,有用か (予測可能性に資するか) どうかも重要である.
      • ほとんどの思弁はこの基準は満たさなかった.
      • とはいえ,時代が下るにつれて特定の現象に具体的に適用されるようにはなった.
        • パルメニデスやクセノファネスの理論は,精密さの点で,ウラノスとガイアの神話と大差ない.
        • 他方,熱冷乾湿の理論や濃密/希薄の理論は,少なくとも具体的事物に適用可能である.
    • 加えて,抽象的論証と経験的証拠による論争はあった.
      • 優越したのは前者である.ギリシャ人は単純性の基準を意識的に用いた (cf. GC 2.2).
  • この種の理論はギリシャ-ローマ時代が終わってからもずっと存続した.
    • 錬金術文献では硫黄と水銀が原理とされ,男女原理と同一視される.
    • 17世紀の Thomas Fludd の宇宙論は精緻な反対項図式を提示している.
    • Read は歴史上のこうした諸図式の類似性を強調している.
      • ただし,理論が現象に適用される仕方,(2) それが正当化される仕方,が様々に異なる点は留意すべきである.

  1. 邦訳:エミール・デュルケーム『分類の未開形態』.

  2. ロベール・エルツ『右手の優越』.