Ἀλήθεια の前理性的意義という問題 Detienne (2006) Les maîtres de vérité dans la Grèce archaïque, Chap.1

  • Marcel Detienne [1967] (2006) Les maîtres de vérité dans la Grèce archaïque. Librairie Générale Française.
    • I. Vérité et société. 51-8.

科学的文明において,「真理」(Vérité) の概念は客観性,伝達可能性,一貫性を意味する.論理的原理への適合と実在への適合という2つのレベルで定義され,それゆえ論証・正当化・実験という考えと不可分である.

真理概念はつねに存在する不変で単純な概念に見えるかもしれない.だが,例えば実験は,物理学や化学が重要な地位を占める社会でしか必要とされない.したがって,心的カテゴリー (catégorie mentale) としての真理が,思考体系の全体,ひいては物質的・社会的生活と連動しているのではないかと問うてみることができる.

インド・イラン語派の Ṛta は「真理」と訳される.だが Ṛta は礼拝の祈祷,暁の再来を保証する力,神々の崇拝が確立する秩序,権利,をも意味する.私たちの真理概念とは全然異なる複雑な概念である.

ではギリシャの場合はどうだろうか.ギリシャが興味を引く理由は,第一に西洋の真理概念が歴史的にギリシア思想に由来するからであり,第二にギリシャが6世紀以来構築した種類の理性において,「真理」の或るイメージが基礎的な位置を占めるからだ.

Ἀλήθεια はパルメニデスの詩に登場したとき既に長い歴史を有していた.歴史は文献上はホメロスに始まる.それゆえホメロスからパルメニデスまでの証言の単線的発展だけで「真理」を解明できると思われるかもしれない (W. Luther).だが問題がある: パルメニデスの詩には明らかな宗教的意義があり,私たちは哲学者がなおも賢者 (sage) ないしマギ (mage) であるような哲学-宗教界 (milieux philosophico-religieux) に導かれる.そして ἀλήθεια に向かうある種の思考はこの界において見いだされる (クレタのエピメニデス).

哲学的 ἀλήθεια の前史は占い師 (devin)・詩人・正義の王 (roi de justice) の思考体系へと私たちを導く.これらはある種の語りが ἀλήθεια に規定される三部門である.「真理」の前理性的意義を規定するとは以下の重要な問いに答えることだ:

  • Ἀλήθεια は神話的思考においていかなる形態を取るのか.
  • 語りの種類の移行はなぜ,いかにして起こったのか.
  • 6世紀の社会的実践の諸革新と λόγος をめぐる省察の発展とはどう関係するのか.
  • 変化のなかでどのような価値が重要でありつづけたのか.
  • 宗教的思考と理性的思考の根本的な違いはなにか.

本書の目標は以下である:

  • 心的・社会的・歴史的文脈によって「真理」の前理性的意義を規定すること.
  • 第一哲学の概念枠組みの宗教的起源の問題を提起し,ポリスに哲学を導入した人間のタイプを明らかにすること.
  • 宗教的思考と哲学的思考の連続性と断絶を取り出すこと.