エレア派批判の位置づけ Clarke (2019) Aristotle and the Eleatic One, Intro.-Ch.1

  • Timothy Clarke (2019) Aristotle and the Eleatic One, Oxford University Press.
    • Introduction, Chap.1 (pp.1-18).

標題は Barnes (1979) のもじりかしら.序論の一元論の分類は解釈上有益.また「原理の有無の吟味は第一哲学の仕事でもない」という 1.3 の主張は目新しいと思う.


序論

  • 本書はアリストテレスのエレア派批判のうち一元論批判 (I.2-3) を扱う.
  • 一元論 (「唯一の F がある」) は F に応じて多様に解釈できる (e.g. 一つの物質タイプ,一つの実体トークン).アリストテレスパルメニデスとメリッソスに帰しているのは,次の二つのラディカルな一元論である:
    • 存在者一元論 (entity monism): 一つの存在者 (トークン) だけがある.
    • 本質一元論 (essence monism): 実在 (reality) は全て同じ本質をもつ.
  • こんな信じがたい理論は何から帰結するのか?
    • メリッソスの場合の概要はわかりやすい: 生成消滅可能性の否定から,存在者は永遠かつ空間的に無際限であることを導く.このような存在者は一つしかなく,単一性は一様性を含意する.
    • パルメニデスの場合は不明瞭.アリストテレスは論証の詳細を説明抜きに前提している.だが,以下で論じるように,解釈は再構成可能であり,かつテクスト上も哲学的にも魅力あるものになっている.

1. エレア主義と自然哲学

1.1 序論

  • 本章は,エレア派批判の前置きをする Phys. I.2, 184b25-185a20 を扱い,以下を問う:
    • なぜ自然探究を超えた批判だと考えたのか,
    • エレア派理論がどう理解されているか,
    • なぜ『自然学』冒頭でこの理論を扱うのか.

1.2 自然的な存在者の原理

  • I.2 冒頭で原理の数による先行学説の予備的分類がなされ,最初にエレア派 (一個,I.2-3) とアナクサゴラス (無限個,I.4) という両極端の立場を斥ける.
  • アリストテレス原理論の重要な利点の一つは,生成可能性批判に対する応答を可能にすることである (Cf. I.8).

1.3 エレア派批判の地位

  • アリストテレスは一元論の不可能性を論じた後 (Phys. I.2, 185a20-35),諸論証がうまくいかない理由を説明する (I.3, 186a4-b35).
  • その前に,一元論の吟味は自然哲学の範囲外だと論じられる (184b25-a17).
    1. 幾何学の例が示す通り,原理の探求者は諸原理の存在を前提している.他方,エレア派は原理の存在を実質的に否定している.
      • 「原理は何かの原理である」と存在者一元論から帰結する.
      • したがって,ここは存在者一元論の帰属の決定的証拠である.
    2. エレア派はまた変化の存在も否定している.
  • では,吟味は誰の仕事なのか?
    • アリストテレスの言に従えば「問答家」.
    • もう一つの可能性は「形而上学者」だが,形而上学も原理の探究を行う以上,ここでの一般論には当てはまらないと思われる.

1.4 なぜ『自然学』冒頭にエレア派についての議論があるのか?

  1. 自然学の根本的な前提を疑うという点で relevant だから.
  2. エレア派以後の自然学に影響があるから.