ἐπιστήμη と πίστις 『後書』I.2 72a25ff.

APo. I.2, 72a25-b3. 同章末尾.

[72a25] 事柄を確信し知るのは,我々が論証と呼ぶような推論を持つことによってでなければならないが,そうした推論であるのは,推論がそこから出るところのものどもがこれらであることによってなのだから,第一のことどもを,全てであれいくつかであれ予め認識していることだけではなく,いっそう認識していることも必然である.というのも,各々のもの [C] がそれを通じて [A に] 成り立つもの [B] は,それ [A] に一層成り立つのである.ちょうどそれを通じて我々が慕うところのものが,一層慕わしいように.したがって,我々が第一のことどもを通じて知り,かつ確信するなら,それら第一のことどもを一層知り,かつ確信するのである.なぜなら,それら第一のことどもを通じて後の事柄をも〔知り,かつ確信する〕のだから.

[72a32] 現に知っていることも,現に知っている場合より優れた状態にあることもないような事柄を,知っていることどもより一層確信することはできない.だが,もし論証を通じて確信している人々の誰かが予め認識していないとすれば,そのことが帰結するだろう.というのも,結論の全ての諸原理,あるいは何らかの諸原理を一層確信することが必然的だから.

[72a37] 論証を通じた知識を持とうとする人は,諸原理を示されることより一層認識し,一層確信しなければならないが,しかし,端的に知る人は説得に動かされるべきではない以上,それとは別の,諸原理と対立する,そこから反対の誤謬の推論があるだろう事柄のどれかが,その人にとって一層信憑性があったり,よりよく認識されたりしてはならない.

要約

  • x が P を確信しかつ知っている iff. x が P の論証 Σ を持つ.
    • Σ が論証である iff. Σ の前提 A1, A2, ... An が原理である (P の知識・確信は A1, ..., An の知識・確信を通じて x に成り立つ).
    • 一般に,(A is) B を通じて A is C が言えるなら,A is C であるより一層 A is B.
    • ゆえに,x は P より (「第一の事柄」に含まれる) P の原理 A1, ..., An を一層認識している.
  • x が P を知っておらず,かつ P を知性認識しておらず,かつ x が Q を知っている場合,x が P を Q より確信することはできない.ゆえに,原理 P を結論 Q より予め認識していなければならない.
  • また知る人は説得によって動かされてはならないので,原理と対立する事柄が一層信憑性があったりよく認識されてはならない.

先行研究

Barnes.

  • 72a25 「B を通じて」か「A is B を通じて」かは解釈が分かれる.どちらにせよ尤もらしくない.なお知識の度合いとは,知っているということに含まれる確信の度合いだと解釈できる.そうだとすると正確には > ではなく ≧ でなければならない.
  • 72a32 議論は誤っている:「予め (before)」までは言えない.かつ単なる信念を知識以上に確信することはありうる.
  • 72a37 "ἀλλὰ μηδ᾽ ἄλλο αὐτῶι πιστότερον εἶναι μηδὲ γνωριμώτερον τῶν ἀντικειμένων ταῖς ἀρχαῖς ἐξ ὧν ἔσται συλλογισμὸς ὁ τῆς ἐναντίας ἀπάτης" は 2×2 通りの解釈がありうる: (1) τῶν ἀντικειμένων が than か among か,(2) ὧν が ἀντικειμένων か ἀρχαῖς か.than-ἀντικειμένων 解釈は伝統的だが「対立するものが偽であることより」と補う必要がある.among-ἀντικειμένων 解釈が最良.
  • 72b3 知る人の説得されなさはアカデメイア派の常套句 (Tim. 29c, 51c; Def. 414c; Top. V.2, 3 etc.).しかし正当化困難.