矛盾許容論理 Priest, Tanaka, and Weber (2018) "Paraconsistent Logic"

  • Graham Priest, Koji Tanaka, and Zach Weber (2018) "Paraconsistent Logic" The Stanford Encyclopedia of Philosophy (Summer 2018 Edition), Edward N. Zalta (ed.).

形式的な議論は半ば翻訳みたいになってしまった.


現代の正統な・標準的な (古典・非古典) 論理は爆発的 (explosive) である.すなわち A, \lnot A が任意の B を含意する (ex contradictione quodlibet, ECQ) ような帰結関係を持つ.論理的帰結関係が爆発的でない場合,矛盾許容的 (paraconsistent) という.矛盾許容論理は,矛盾する情報をも,潜在的に情報を含むものとして扱う.

英語の接頭辞 'para-' は 'quasi' と 'beyond' の意味を持つ.語 'paraconsistent' の発明者 Miró Quesada は前者を念頭に置いていたようだが,多くの矛盾許容論理学者は後者の意味で理解している.

矛盾許容論理は「爆発的でない」という否定的な仕方で定義されるので,問題・プログラムも様々な集合に分かれる.本記事も包括的なサーヴェイではなく,様々な領域内での目立った哲学的特徴を叙述するのがねらいである.

1. 矛盾許容性

ある論理が矛盾許容的である iff. 当の論理の (意味論的ないしは証明論的) 論理的帰結関係 \vDash が爆発的でない.つまり爆発律 (A, \lnot A \vDash B) は矛盾許容的には妥当でない.

正統な論理において,無矛盾性はしばしば,任意の理論への最も基本的な要請という役割を果たす.矛盾許容論理においては,これが整合性 (coherence) の観念まで緩められる: どんな理論も全ての文を含んではいけない.実際,多くの矛盾許容論理は無矛盾律 (\vDash \lnot(A \land\lnot A)) を妥当にする.

矛盾許容論理は非常に多様性がある.今日の発展段階においては,矛盾許容性は特定のアプローチというより,論理が持ったり持たなかったりする属性の一つと捉えるのがふさわしい.

1.1 真矛盾主義

とりわけ矛盾許容論理に反対する文献においては,矛盾許容性と真矛盾主義 (真なる矛盾があるという見解) が混同されがちである.矛盾許容性は帰結関係の属性だが,真矛盾主義は真理に関する見解である: 矛盾が成り立つが全ての文が成り立たないモデルを作れるからといって,矛盾がそれ自体として真だとは限らない.一方,真矛盾主義が整合的であるためには,真矛盾主義者が好む論理は矛盾許容的である必要がある (さもなければすべてを真とする瑣末主義 (trivialism) に陥る).

1.2 爆発律小史

論理学が数学的に定式化された19世紀以来,爆発的な論理が標準となった.だが,古代においては,爆発律の妥当性を誰も支持していない.アリストテレスは連結原理 (connexive principle) を提示する:「同じことが,同じことのあることとありはしないことによって必然化されることは不可能である」(APr. II.4, 57b3).この原理は中世に議論の的となった (中世の議論は条件文の文脈でなされたが,帰結に関する議論とも見なせる).この原理はボエティウスとアベラールが取り上げた.アベラールは帰結について二つの説明を考えた.第一は「前提が真で結論が偽ということはない」という今日よく知られたものだ (真理保存性).第二は「前提の意味は結論の意味を含む」というもので,こちらは (関連性論理と同様に) 任意の結論を出すような推論を許容しない.アベラールは第二の「包含性による説明」がアリストテレスの原理を捉えていると論じた.

アベラールの立場はパリのアルベリク (Alberic of Paris) によって困難に立たされたが,中世の多くの論理学者は包含性に基づく説明を概して放棄しなかった.だが,最も有力な解決策は,連結原理の放棄だった.これはパルウィポンタヌス (Adam Balsham or Parvipontanus) が採ったアプローチだ.パルウィポンタヌス主義者たちは,帰結の真理保存的説明と,それがもたらす「パラドクス」を受け入れた.その一人であるソワソンのギヨーム (William of Soissons) は,「C. I. Lewis による爆発律の (独立) 論証」と今日呼ばれるものを発見した.

ただし,包含性による説明は消滅したわけではない.スコトゥスとその一派は包含性による説明を受け入れた.15世紀後半のケルン学派は,選言的推論を拒否することで,ECQ に反対する議論を行った.

アジアの論理学史 (e.g., ジャイナ教/仏教的伝統) においては,言明が真かつ偽でありうると考える傾向にある.また陳那や法称は ECQ を認めなかった.彼らの説明は論証の要素間の「遍充」(pervasion, Skt: vyapti, Tib: khyab pa) 関係に基づく; アベラール同様,前提と結論のあいだに真理保存性より強い結びつきがなければならない.

1.3 矛盾許容論理の現代史

20世紀には様々な動機から論理的帰結の爆発的な説明の代替案が提出された.最も初期の例はヴァシレフ,オルロフという二人のロシア人であるが,同時代には何らインパクトがなかった.最初の (形式) 論理学者は Łukasiewicz の学生であった Jaśkowski である.ほぼ同時期に Halldén (1949) がナンセンスの論理学を提出したが,これも顧みられずに終わった.

南アメリカでは Florencio Asenjo (1954) およびとりわけ Newton da Costa (1963) が独立に矛盾許容論理を研究した.以来カンピーナスサンパウロでは継続的に研究が行われている.関連性論理の形での矛盾許容論理はイングランドで Smiley (1959) が,アメリカで Anderson と Belnap が提出した.ピッツバーグでは Dunn や Meyer を含む関連性論理学者のグループが成長した.これがオーストラリアに輸入され,R. Routley (後に Sylvan) と V. Routley (後に Plumwood) が Anderson/Belnap 関連性論理の志向的意味論を発見した.その周辺でキャンベラにおいて学派が形成された.Brady, Mortensen, 後には Priest がそこに含まれる.

70年代以降の矛盾許容論理の発展は国際的である.このうち適応論理 (adaptive logic) や保存主義 (preservationalism) などの主要な学派は以降で粗描される.

2. 動機

矛盾許容論理の諸体系を要約する前に,動機を提示する.

2.1 瑣末さのない矛盾

矛盾許容論理を支持する最も説得力ある理由づけは,矛盾だが瑣末でない理論が存在する,というものだ.

2.1.1 瑣末でない理論

例えばボーアの原子理論を考えよ.この理論によれば,電子はエネルギーを放射することなく原子核の周りを回る.だが,理論の基幹をなすマクスウェル方程式によれば,軌道内で加速する電子はエネルギーを放射するはずである.ゆえにこの説明は矛盾している.だからといって,明らかに,電子の振る舞いについてそこからなんでも推論されたわけでも,そうすべきだったわけでもない.ゆえに,背後にある推論は矛盾許容的でなければならない.

2.1.2 真なる矛盾

真矛盾主義も矛盾許容論理の動機となりうる.真矛盾の例は嘘つきのパラドクスである.

2.1.3 言語学

矛盾する文脈でも標準的な語彙特徴 (lexical features) が保存されるということが言語学的に知られている.例えば:

If I tell you that I painted a spherical cube brown, you take its exterior to be brown …, and if I am inside it, you know I am not near it. (Chomsky 1995: 20)

ここで 'near' は不可能対象においても空間的な共示を失っていない.ゆえに,自然言語が論理をもつと言えるなら,矛盾許容論理は形式化の候補でありうる.

2.2 人工知能

矛盾許容論理は,哲学的考慮のみならず,応用と含意によっても動機づけられる.

2.2.1 自動推論

応用の一つは自動推論 (automated reasoning) である.計算機は情報を貯蔵し,操作し,そこから推論する.だが情報がミスによって矛盾する場合はよくある.矛盾する情報を除去するテクニックは検討されてきているが,どれも限定的な適用可能性しかなく,いずれにせよ無矛盾にする保証はない.それゆえ,矛盾許容論理を基底に置くのが相応しい.とりわけ Nelson の矛盾許容的な四値論理 N4 の応用研究がなされてきた.

2.2.2 信念の改訂

人々は矛盾する信念を抱いているし,合理的にそうしているかもしれない (A\lnot A の両方に相当量の証拠がある場合など).こうした矛盾を原理的に消去しえない場合もある (例: 合理的な人物が A_1, ..., A_n と主張する本を書いているが,同時に複雑な本が真理のみを含むことができないことにも気付いており,したがって \lnot (A_1\land ... \land A_n) と合理的に信じている).そういうわけで,信念の改訂の諸原理は矛盾する信念の集合を扱う必要がある.信念改訂の標準的な理論 (e.g., AGM 理論) は古典論理に基づいているため,これに失敗している.むしろ矛盾許容論理が必要である.

2.3 形式意味論集合論

矛盾許容論理は論理的パラドクスへの応答として理解できる.

2.3.1 真理論

真理は (さしあたり) タルスキの T-図式で特徴づけられる: T({\bf A}) \leftrightarrow A (A は文,{\bf A} はその名前).だが,自己言及の標準的な手段 (e.g., 算術化) によって,T({\bf B}) と述べる文 B を作ることができ,T-図式から T({\bf B}) \land\lnot T({\bf B}) が言える (要は嘘つきのパラドクス).

2.3.2 集合論

集合論の素朴で直観的に正しい公理として内包図式と外延性公理がある:

\exists y \forall x (x \in y \leftrightarrow A)

\forall x (x \in y \leftrightarrow x \in z) \rightarrow y = z (ただし xA に自由に出現しない).Russell が発見したように,内包図式を含むどんな理論も矛盾する.

こうした問題に対する標準的なアプローチはどれも便宜的なものだ.矛盾許容的アプローチは,これらの考えに関する数学的直観を尊重する理論を可能にする.現在そうしたアプローチは複数ある.

2.3.3 数学全般

矛盾する数学的体系の研究をしたいという動機もある.詳しくは inconsistent mathematics の項目を参照.

2.4 算術とゲーデルの定理

矛盾を導く明白な算術の原理は存在しないが,算術の超準モデルと同様に,矛盾するモデルのクラスがあり,それらは興味深く重要な数学的構造を持つ.

矛盾するモデルには有限なものがある.例えば古典的なレーヴェンハイム・スコーレムの定理によれば,Q (ロビンソン算術) は任意の無限基数のモデルを持つが,有限なモデルを持たない.しかし,矛盾するモデルを参照すれば Q が有限なモデルを持つことを示せる.

否定的な結果を示すメタ数学の他の定理の場合,矛盾許容論理を用いれば,もはや成り立たない.例えば,ゲーデルの第一不完全性定理の一ヴァージョンによれば,どんな無矛盾な算術理論においても1,直観的に正しい推論によって真だと言いうるが,証明不可能な文 (ゲーデル文) が存在する.しかし,算術の定式化に矛盾許容論理が用いられれば,ゲーデル文も理論内で真だと証明できる.

2.5 曖昧さ

当初より矛盾許容論理は曖昧さ (vagueness) と砂山のパラドクスへの対処として持ち出されてきた (Jaśkowski 1948).一つは真理値過剰 (glut) を認める軽評価論 (subvaluationism) である.より一般には,(真矛盾的) 矛盾許容論理が三値論理的アプローチにおいて用いられる.その目的は,二つの直観的主張を維持することである:

  1. 寛容さ (tolerance): 曖昧な F については,ある xF だが非常に F に似たある yF でない2,というわけではない.
  2. 切り離し (cutoffs): 任意の F について,ある xF だがある yF でないとして,ある順序付けられた x から y への漸進において,最後の F と最初の非 F がある.

分析の鍵は,切り離しにおいて,F かつ非 F なる対象に場所を与えることだ.

砂山のパラドクスがラッセルのパラドクスや嘘つきのパラドクスと同種のパラドクスかどうかは議論がある.同種だとすれば,矛盾許容的アプローチは同等に自然かもしれない.

3. 矛盾許容論理の諸体系

矛盾許容論理への関心の高まりに応じて,様々なテクニックが開発されてきた.多くの矛盾許容論理学者は古典論理を十把一絡げに拒否するわけではない; 無矛盾な文脈では古典的推論の妥当性を認める.爆発律の拒否の動機は矛盾の隔離である.どれほどの改訂が必要と考えるかに応じてテクニックがある.以下では改訂の大きさに応じて分類する.論理的な目新しさは命題論理のレベルで見出だせるので,以下では矛盾許容命題論理に集中する.

3.1 討議論理

最初に開発された矛盾許容論理は Jaśkowski の討議論理 (discussive logic) である.背後には次のような考えがある.討議 (discourse) においては,各参加者が何らかの情報・意見を提出する.各々は提出者にとって真である.討議において真なのは,提出された言明の集合である.各参加者の意見が無矛盾でも,全体として矛盾しうる.

以上が様相論理で定式化される.Jaśkowski は簡単のため S5 を用いる.各参加者の信念集合は S5 のモデル M のある世界で真とみなせる.ゆえに討議内の発話 A\diamond A と解釈できる.ゆえに A\lnot A がある討議において同時に成り立ちうる.BA_1,..., A_n の討議上の帰結である iff. \diamond B\diamond A_1,..., \diamond A_n の S5 上の帰結である.

このとき,討議内で A, \lnot A の両方が成り立つが,B が成り立たない場合がある.ゆえに討議論理は矛盾許容的である.ただしある世界で A \land \lnot A が成り立つ世界は S5 には存在しないので,\{A \land \lnot A\}\vDash B は討議論理で妥当である.ゆえに随伴 (adjunction) \{A, \lnot A\} \vDash A \land \lnot A が成り立たない.ただ討議的な随伴  A \land_d BA \land \diamond B と定義すれば,A {\land}_d について随伴が成り立つ.

問題の一つは条件文である: S5 では  \diamond p \diamond(p \rightarrow q) から \diamond q が出ない.Jaśkowski 自身は \rightarrow_d\diamond A \rightarrow B として定義し,モーダスポネンスが成り立つようにした.

3.2 非随伴的体系

上述の通り,討議的な随伴を定義しなければ,討議論理は非随伴的になる.また,最大限に無矛盾なところまでしか前提を連言で結べない (conjoin) とする戦略もある.特に \Sigma'\Sigma の最大限に無矛盾な部分集合であるとは,「A\in\Sigma-\Sigma' ならば\Sigma'\cup{A} が矛盾である」ことである.そして A\Sigma の帰結である iff. A\Sigma のある最大限に無矛盾な部分集合 \Sigma' の帰結である.このとき \{p, q\} \vDash p \land q だが \{p, \lnot p\} \nvDash p \land \lnot p

3.3 保存主義

最大限に無矛盾な部分集合を用いた帰結の定義は無矛盾性のレベルの「目盛り」として見ることができる.\{p, q\} は自分自身の無矛盾な部分集合なのでレベル1,\{p, \lnot p\} はレベル2.このとき帰結関係は無矛盾な断片のレベルを保存するものとみなせる.このアプローチは保存主義 (preservationalism) と呼ばれる (Jennings, Schotch).

厳密に言えば: 式の集合 \Sigma は古典的に無矛盾な断片に分けられる.\vdash を古典的な帰結関係とする.\Sigma の被覆 (covering) の一つは,集合  \{\Sigma_i:i\in I\} である (ただし各要素は無矛盾,かつ \Sigma = \bigcup_{i\in I} \Sigma_i).このとき \Sigma のレベル l(\Sigma) は,n 個の集合に分けられるとき n,そのような n がないとき\infty.このとき強制 (forcing) と呼ばれる帰結関係 \Vdash が次のように定義される: \Sigma \Vdash A iff. l(\Sigma) = \infty,または,l(\Sigma) = n かつサイズ n の任意の被覆について \Sigma_j\vdash A なる j\in I が存在する.l(\Sigma) = 1 または \infty の場合,強制関係は古典的な帰結関係と一致する.

ぶつ切り戦略 (chunking strategy) は,科学や数学におけるある種の理論の基底にある推論メカニズムを捉えるためにも適用される.数学においては,無限小に関する最良の理論は矛盾している.ライプニッツニュートンの無限小計算においては,無限小が 0 かつ非 0 でなければならない.この推論メカニズムを捉えるには,ぶつ切りに加えて,矛盾するが瑣末でない理論の無矛盾な断片の間に限られた量の情報の流れを許すメカニズムが必要である.言い換えれば,あるぶつ切りから別のぶつ切りに一定の情報が浸透 (permeate) しうる.理論の背後にある推論手続きはぶつ切りと浸透 (Chunk and Permeate) でなければならない.

C = \{\Sigma_i : i\in I\} とし,I \times I から式の部分集合への写像 \rhoC 上の浸透可能性関係 (permeability relation) とする.i_0\in I のとき,\langle C,\rho,i_0\rangle\Sigma 上のC&P構造と呼ぶ.\cal{B}\Sigma 上のC&P構造とし,\cal{B} に関する \Sigma のC&P帰結関係を次のように定義する.任意の i\in I について,文集合 \Sigma_{i}^{n}再帰的に定義できる:

\Sigma_{i}^{0} = \Sigma_{i}^{\vdash}

\Sigma_{i}^{n+1} = (\Sigma_{i}^{n} \cup\bigcup_{j\in I}(\Sigma_{j}^{n} \cap \rho(j,i)))^{\vdash}

つまり \Sigma_{i}^{n+1} は,\Sigma_{i}^{n} からの帰結と,レベル n における他のぶつ切りからぶつ切り i に浸透する情報を含む.そして最後に:

\Sigma_{i}^{\omega} = \bigcup_{n\lt\omega}\Sigma_{i}^{n}

\Sigma のC&P帰結は,全ての適切な情報が浸透可能性関係に沿って流れてゆけるときの,指定されたぶつ切り i_0 において推論しうる文に関して定義できる.

3.4 適応論理

矛盾は隔離すべきであるのみならず,たいてい真剣に考慮しなくてよいものでもある,と考えることもできる.無矛盾性は,矛盾すると判明するまでの一種の規範である: 文や理論は,可能な限り整合的に扱われるべきである.本質的には,これが適応論理 (adaptive logic) の動機である.

適応論理とは,推論規則を適用するときの状況に適応する論理である.適応論理は我々の推論の動的なあり方 (dynamics) のモデルである.推論は外的・内的 (external and internal) 両方の意味で動的である.外的に動的であるのは,新たな情報が利用でき前提の集合を拡張する際に,帰結が撤回される必要が生じうる場合である.すなわち帰結関係の非単調的性質を指す: ある \Gamma, \Delta, A について \Gamma \vdash A かつ \Gamma \cup \Delta \nvdash A.内的に動的であるのは,前提の集合が一定であっても,以前推論された (とりわけ,矛盾しないと考えられた) 結論が,後に推論しえない (とりわけ矛盾する) と考えられうる場合である.妥当な推論が再帰的に枚挙可能でない場合,推論は内的に動的でありうる.このうち,適応論理が捉えようとするのは,内的に動的なあり方である.

例: \Gamma = \{ p, \lnot p \lor r, \lnot r \lor s, \lnot s, s \lor t \} を前提の集合とする.\lnot ss \lor t から選言的推論 (DS) によって t を推論し,p\lnot p \lor r から DS によって r を推論し,\lnot r \lor sr から s を推論しうる.だがここから s \lor \lnot s が得られる.それゆえ最初の DS の適用を撤回しなければならない.

適応論理は一般に三要素からなり,各々を決めることで適応論理の体系が得られる.

  1. 下限論理 (lower limit logic, LLL)
  2. 変則的事態 (abnormalities) の集合
  3. 適応戦略 (adaptive strategy)

LLL は適応論理のうち適応を被らない部分であり,状況によらず受け入れうる推論規則と公理からなる.変則的事態とは,推論の冒頭では成り立たないと見なされている式の集合である.多くの適応論理においては,その要素は A\lor\lnot A の形を取る.適応戦略は,変則的事態の集合に基づいて推論規則の適用を統御する戦略である.いかなる変則的事態も論理的に可能でないとする要請を LLL に付加すると上限論理 (ULL) が得られる.

3.5 形式的矛盾の諸論理

ここまで見てきた矛盾許容論理は,理論の無矛盾な部分から矛盾を隔離するアプローチを採っていた.その目的は,古典的な機構をなるべく保ちつつ,爆発を避けることだった.この目的を明示するやり方として,無矛盾性にメタ理論的観念をエンコードすることで言語の表現力を拡張するやり方がある.形式的矛盾の諸論理 (The Logics of Formal Inconsistency, LFIs) は,古典論理の無矛盾な断片だが,爆発律を拒否するものだ.LFIs の研究はブラジルの Newton da Costa が先鞭をつけた.対象言語で (無) 矛盾をエンコードする効果の一つは,矛盾を瑣末さから明示的に切り離せることだ.

LFIs の背後には,古典論理をなるべく尊重すべきだという考えがある.古典論理から逸脱すべきなのは矛盾があるときだけである.つまり矛盾がないときは爆発律を認めて良い.そのために,無矛盾性を \circエンコードする.このとき \vdash が LFI の帰結関係である iff.

  1.  \exists \Gamma \exists A \exists B(\Gamma, A,\lnot A \nvdash B) かつ
  2.  \forall \Gamma \forall A \forall B(\Gamma,\circ A, A,\lnot A \vdash B)

ここで \vdash_C が古典的な帰結を表し,\circ(\Gamma) が式の集合 \Gamma の無矛盾性を表すとすると,無矛盾な文脈における帰結関係は次の同値関係から把握できる: \forall\Gamma\forall B \exists\Delta(\Gamma\vdash_C B \Leftrightarrow \circ(\Gamma), \Gamma \vdash B)

モーダスポネンスと二重否定除去,および以下を公理に持つ古典論理断片を考えよう.

\circ A \rightarrow(A\rightarrow(\lnot A\rightarrow B))

(\circ A \land\circ B) \rightarrow\circ(A\land B)

(\circ A \rightarrow\circ B) \rightarrow\circ(A\rightarrow B)

このとき \vdash は da Costa の体系 C_1 を与える3

3.6 多値論理

矛盾許容論理の最も単純な作り方は多値論理だろう (Asenjo がこのアプローチの嚆矢となった).最も単純なのは真 (t)・偽 (f)・両方 (b) の三値を用いるやり方で,本質的にはクリーネやウカシェヴィチの三値論理と変わらないものが作れる (LP).LP においては爆発律は妥当でない: tb を指定値 (designated values) と呼ぶとすると,pb, qf を割り当てるとき,p, \lnot p\nvdash q より,前提は指定値だが結論はそうでない.さらに論争的なことに,LP は真矛盾主義と相性がいい.が,真矛盾主義を採らねばならないわけではない.例えば真理値を真理の意味ではなく認識的に捉えることもできる: 真理値は認識的・ドクサ的コミットメントを表す.あるいは,意味論的な理由から「両方」という値が要請されると考えることもできる (我々の信念・言明の矛盾する本性を現す).

なお LP はモーダスポネンスが成り立たないという特徴をもつ (p が真かつ偽でqが偽の場合,p および p\rightarrow q は指定値だが q は偽).

多値の矛盾許容論理を作るもう一つのやり方は,真理値割り当てを関数ではなく関係とみなすこおだ.このとき評価 \etaP\times \{0,1\} の部分集合である.このとき命題は 0, 1 どちらと関係することもしないこともできる.妥当性を全ての関係的評価のもとでの真理保存と定義すると,関連性論理の断片である一次含意 (First Degree Entailment, FDE) が得られる (Dunn 1976).

3.7 関連性論理

ここまで見てきた ECQ の拒否は,矛盾を含む前提の分析に依存していた.だが,ECQ の本当の問題は,むしろ前提と結論のつながりの欠如だ,と考えることもできる: 結論は前提と関連して (be relevant) いなければならない.

関連性論理はピッツバーグの Anderson and Belnap (1975) で考案され,様々な公理系の関連性論理が研究された.これがオーストラリアに持ち込まれ,意味論の研究が盛んとなった.意味論は Fine, Routley, Meyer, Urquhart によって展開された.Routley-Meyer 意味論は可能世界意味論に基づく.この意味論においては,選言・連言は通常通りに振る舞うが,各世界 w は連合する世界  w^* を持ち,否定はw^* に関して評価される: \lnot Aw で真 iff. A がw^*で偽.ゆえに,Aw で真だがw^*で偽のとき,A\land\lnot Aw で真 (なお標準的な関連性論理においてはw^{**} = w).したがって,この意味論において否定は内包的オペレータである.

関連性論理の第一の関心事は結合子 \rightarrow にある.A\rightarrow B が論理的真理のとき,AB と関連する (i.e. 数なくとも一つの命題変数を共有する).条件文の意味論は Routley-Meyer モデルにおいては三項関係によって与えられる.Priest and Sylvan (1992), Restall (1993, 1995) の単純化された意味論では,世界が普通の世界 (normal) と普通でない世界 (non-normal) に分けられる.w が普通の世界のとき,A\rightarrow Bw で真 iff. Rwxy なる任意の x, y についてAx で真ならBy で真.Rwxy かつ Bxで真だがy で真でない場合,w においてはB\rightarrow Bw で真でない.ゆえにA\rightarrow(B\rightarrow B) は論理的真理でない (妥当性は普通の世界上での真理保存性として定義される).以上が基本的な関連性論理 Bを与える.より強い論理 (e.g., R) は三項関係に別の制約を加えて作られる.

他にも Dunn による FDE の関係意味論に基づく世界意味論の諸種がある.このとき否定は外延的であり,条件結合子は真・偽双方の条件を与えられる必要がある:

  • A\rightarrow Bx で真 iff. Rwxy なる任意の x, y について,Axで真ならByで真.
  • A\rightarrow Bx で偽 iff. Rwxy なるある x, y について,Axで真ならByで偽.

三項関係に制約を加えるとより強い論理が作れる.ただしこれらの論理は Anderson and Belnap が開発した標準的な関連性論理ではない.標準的なものを手にするには近隣フレーム (neighborhood frames) が必要である (Mares 2004).詳しい説明は relevant logics の項目を参照のこと.


  1. もちろん厳密にはいくつか条件が入る.

  2. 原文は「非常に F に似たある x」だが,紛らわしいので改めた.

  3. この後 C_n および C_\omega が言及されるが,よく分からなかったので省略する.