〈ある〉の問いの形式的構造 Heidegger (1927) Sein und Zeit, §2

  • Martin Heidegger (1927/2006) Sein und Zeit, 19 Aufl., Max Niemeyer.
    • §2. Die formale Struktur der Frage nach dem Sein. 5-8.

既にかなり難しい.内容を要約して不明点は注に回した.


〈ある〉の問いは基礎的な問いなので,相応な見通しの良さ (Durchsichtigkeit) を要する.ゆえに,問い一般に構成的な諸性格について,予め論究する必要がある.

  • 「問う」(Fragen) とは「探す」(Suchen) の一種.探すことは探されるもの (Gesuchte) に予め導かれている.
    • 問う := 〈あるもの〉を認識しつつ,あること (Daßsein)・そうあること (Sosein)1 の点で探すこと.
    • 探究する := 問われるもの2を露わにしつつ規定すること.
  • 問うことには,さらに,以下の特徴 (構造契機 Strukturmomente) がある:
    • 問われるもの (Gefragte, Fragen nach x) をもつ; これは「問い合わせる」(Anfragen) 先でもある.
    • 問いかけられるもの (Befragte) をもつ.
    • 問い求められているもの (Erfragte) i.e. 問いの到達目標〔最終的な答え〕をもつ.
    • 問う者という〈あるもの〉の振る舞いとして,〈ある〉の固有な性格である3

問うことを (問うてみるだけ,ではなく) 明示的な問題設定として遂行するなら,上記諸性格が具体的に明らかにされている必要があり4,〈ある〉の意味の問いもそうである.

実際,〈ある〉の意味の問いの「探されるもの」に,我々は予め導かれている; 我々は「ある」の意味を概念的に固定できておらず,その意味を把握・固定する地平さえ見知っていないにせよ,平均的で漠然とした〈ある〉の了解のうちで動いている (そうした了解は事実 (Faktum) である).

〈ある〉の了解の未規定性はそれ自身積極的な現象であり,解明を要する.しかし,〈ある〉の了解の解釈は,形成された〈ある〉の概念を導きとしてはじめて可能になる.

なお,平均的で漠然とした〈ある〉の了解には,伝統的な理論や思いなしが (それと知らずに) 混入している場合もある.

〈ある〉の問いにあって「問われるもの」は〈ある〉であって,それは〈あるもの〉を〈あるもの〉として規定し,〈あるもの〉の論究においてつねにすでに了解されるものである.〈ある〉は〈あるもの〉で「ある」わけではなく,したがって,〈あるもの〉の発見とは本質的に別の仕方で提示されねばならない.ゆえに,「問い求められているもの」である〈ある〉の意味も,〈あるもの〉を規定する概念と本質的に異なる,固有な概念性 (Begrifflichkeit) を要求する.

問いかけられるもの」は〈あるもの〉である (問われている〈ある〉は〈あるもの〉について言われるから).〈ある〉の問いは,〈あるもの〉への正しい接近方法を予め獲得・確保しなければならない.問題は,種々の〈あるもの〉のなかで,どれから (i.e. 出発点が任意でないとすれば,どれを範例的な・優位性をもつ〈あるもの〉として) 出発すべきかである5

了解・概念把握・選択・接近は,問うことを構成する態度であり,それ自体,問う者という〈あるもの〉のあり方 (Seinsmodi) である.ゆえに,〈ある〉の問いを仕上げるとは,問う者という〈あるもの〉を,その〈ある〉において,見通しを良くすることである.我々自身がそれであり,問うという〈ある〉ことの可能性をもつものを,現存在 (Dasein) と呼ぶ6.〈ある〉の意味の問題設定を行うには,現存在をその〈ある〉に関して解明する必要がある7

「〈あるもの〉を或る〈ある〉において規定し,それを基盤にして〈ある〉の問いを設定する」ことは,循環ではない.〈ある〉は従来のあらゆる存在論において前提とされている (vorausgesetzt) が,概念としてではないからだ.むしろ前提するとは,〈ある〉を予め見やること (die vorgängige Hinblicknahme) であり,それによって〈あるもの〉が前もって分節されるのであって,それは平均的な〈ある〉の了解から生じる.そうした「前提すること」は証明不能な原理の出発とは無関係である.

とはいえ,〈ある〉が現存在という〈あるもの〉の〈あり方〉である「問うこと」に本質的に (遡及的に/予め) 関わることは,重要である8.この点は,現存在の何らかの優位を (証明はしないものの) 示唆している.


  1. εἰ ἔστι / τί ἐστι?

  2. Das, wonach die Frage steht と das Gefragtes を同一視した.

  3. i.e.〈あるもの〉の独特なあり方である?

  4. 「探究する」より厳しい条件.

  5. 結局 Gefragte, Befragte, Erfragte がどういう規定なのかいまいちはっきりしない.問いの主題,探究の主要な手がかり,欲しい答え,くらいの感じだろうか (Erfragte は Gesuchte と同一).Anfragen が何なのかも分からずじまい.

  6. Seiendes の一種を Dasein と呼びたい気持ちが分からない.

  7. 「どれが範例的な〈あるもの〉か?」という前段落の問いにここで (どの程度) 答えていることになるのか,は問題.Heidegger 自身の答えは「erweisen されてはいないが sich melden してはいる」.

  8. 「〈ある〉の問いの精緻化と現存在という〈あるもの〉の研究が一致する」という話からこの (〈ある〉と現存在を直接関係項に置く) 定式化を出せる理由がよく分からない.