今週読んだ本

  • M. I. Finley, Politics in the Ancient World (Cambridge: Cambridge UP, 1983).
  • J. M. ボヘンスキー『古代形式論理学』公論社,1980年。
  • 玉村豊男『料理の四面体』中公文庫,2010年。

Politics in the Ancient World

去年勧められた本をようやく読んだ。古代世界の都市国家,とりわけ古典期アテナイ (やスパルタ) と共和政後期のローマがいかにしてその統治機能を果たしたか,ということを論じたもの。ギリシャとローマは勿論様々な相違点を有するが,それにも関わらず根底的には――狭義の「政治 (politics)」を有する「都市国家」であるという点において――同一の世界である,という洞察が,この問題設定の背景にある。狭義の「政治」とは,(1) 国家 (state) に関する事柄であり,(2) そこで人々が (民主政・寡頭政を問わず) 議論により (単なる勧告に留まらない) 拘束力のある決定に到達するようなものを指す (p.52)。この視点から例えばローマ帝政期の都市国家は考察対象から外される。

論述はアリストテレス政治学』における僭主政・寡頭政・民主政の定義から出発し (Pol. 1279b6-40),富者−貧者の階級的緊張関係の場面描写を切り口にして,古代世界における政治の様態,およびそれが持続・衰亡する要因を論じる。章立てからもおおよその問題関心は伺われるだろう (1. 国家・階級・権力; 2. 権威とパトロネージ; 3. 政治; 4. 民衆の政治参加; 5. 政治的争点と衝突; 6. イデオロギー)。

とはいえ実のところまだあまり系統立った理解ができていない。同著者の『民主主義』も論旨を所々で明快に打ち出しているようで全体像が意外と見えにくい印象があったが,これにも同種の難しさを感じた。

『古代形式論理学

原著は 1951 年刊行。和書の類書は皆無ではないにしろ少ないと思われる。図表も豊富で概要を知るには便利。ただ残念ながら古い本なので記号法が PM を踏襲している。*1メガラ派・ストア派論理学の完成度が高いことは分かったが,多分このあたりはむしろその後の研究の進展が著しい分野だろう。

『料理の四面体』

第一版は1980年刊行。軽快だが理論的なエッセイ。料理の本質を鋭く剔抉している (ように素人目には見える)。少なくとも散発的なレシピの集合の一要素と思いがちな一皿の料理をスペクトラムの一点としてとらえかえす発想はかなり良いと思う。

*1:幸い次の記事が参考になる。punctuation による結合順序の指定もこれを見ると雰囲気を理解できる。ワールドワイドウェブにはなんでもある。 https://plato.stanford.edu/entries/pm-notation/