デュルケーム『社会学的方法の規準』

1895年の著作.『社会分業論』以後,『自殺論』以前.「社会的事実」を適切に取り出して分析できる科学的方法がまだなく,これを編み出さなければならない,という問題意識のもとで,研究の諸段階において適用されるべき規準 (règles) を与える.主な論敵はコントとスペンサー.

第二章––有名な「物のように観察せよ」という規準を与える箇所––の議論は幾つかの点で興味を惹いた.

  1. 「観念論」批判.たとえば家族,国家,社会等々を研究する上で,それらを家族・国家・社会の観念の現実化と見なし,この所与の (通俗的な,混乱した) 観念を取り扱おうとする従来の行き方は誤っている,と論じる.「物」はこの「観念」の対概念として提出される.おもしろいのは,この批判を当時の倫理学や経済学に向けているところ (76-82頁).他方この転換にあたっては意識の状態を外部から観察しはじめた心理学が範例となるとされる.ただ社会的事実は,法典や統計などの中に直接現れる分,じつは心理学より有利だとされる.
  2. 具体的にどうすべきか.まず現象に共通に見出される感覚的に把握可能な属性を拾い上げ,専らそれによってのみ現象を定義する.これに基づいてはじめて現象の説明を行いうるのだ,と主張される.「……因果律というものが空語でないかぎり,明確に規定された特徴が一定の次元のあらゆる現象において,一様に,いかなる例外もなく認められる場合には,その特徴は現象の本質と緊密に結びついており,不可分の連関をもっている,と確信することができる」(101頁).これは多分アリストテレスの読者にはごくなじみのある議論だと思う.こういう問題意識があるときにこういう議論になるのね,と得心する面があった.