『分析論後書』の史的背景 McKirahan, Principles and Proofs #1

  • McKirahan, Richard D. Principles and Proofs: Aristotle's Theory of Demostrative Science. Princeton: Princeton University Press. 7-20.

『分析論後書』の研究書を読む。第一章は同書の背景にある5-4世紀における初期ギリシア科学の展開を叙述している。

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εἰ ἔστι の問いの内容 Gómez-Lobo (1980) "The so-called question of existence in Aristotle, An. Post. 2. 1-2"

  • Alfonso Gómez-Lobo (1980) "The so-called question of existence in Aristotle, An. Post. 2. 1-2", The Review of Metaphysics 34. 71-89.

「『分析論後書』B巻1章の εἰ ἔστι は実在用法ではなく述定用法だと見なすべきだ」と主張する論考。一見するより尤もらしい。テクストを読みながら少し検討したい。

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今週読んだ本

今週読んだ本

『進化』

VSI シリーズの進化生物学の入門書。高校生物+αくらいの内容。進化という視点が細胞機能のようなミクロな現象から化石記録や空間分布といったマクロな現象までをどのように良く説明するかを示し (3-4章),また適応がなぜ・どのようにして起こるか (5章),種の多様性が進化の過程でどのようにして生じるか (6章),といった問題にも触れる。簡潔で明快。

フロイト全集 4』

『夢解釈』の前半部。第1章が先行研究の紹介,第2章以降が本論。「夢は欲望の成就である」という主要テーゼを具体的な夢によってひたすら例証していく。論証は全然成り立ってないが,*1さすがに閃きに満ちていて面白い。「何か使える部分あるんじゃないの?」と思ってしまう感じもわかる。

又聞きの「フロイトの学説」の答え合わせ的な側面のある読書だったが,その他に意外なものの元ネタらしき話も発見した: 後味の悪い話 その6。小学生くらいの頃に同級生のあいだで流行っていた「心理テスト」の一つだが,ディテールの相違を除けば本書に登場する症例そのものだ (203-6頁)。

*1:特に「夢の歪曲」という要素の導入 (第4章),「成就される欲望は現在のものでなくてもよい」という留保 (第5章D-β),解釈上の度々のこじつけめいた連想が,議論の健全さを損なっている。またテーゼ自体についても,そもそも我々は多くの矛盾した欲望を抱いており,大抵のイメジャリーは欲望の成就として解釈できる,等々,いくらでも突っ込みどころはある。

トラシュマコスの定義観はそれほど厳密ではない Chappell, "Thrasymachus and Definition"

  • T. D. J. Chappell (2000) "Thrasymachus and Definition", Oxford Studies in Ancient Philosophy 18, 101-7.

Everson 1998 への応答論文。批判的な論点についてはご尤もとしか言いようがない。

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トラシュマコスは正義について指令的主張をしていない Chappell, "The Virtues of Thrasymachus"

  • T. D. J. Chappell (1993) "The Virtues of Thrasymachus", Phronesis 38, 1-17.

Θ. は正義そのものについては指令的な (prescriptive) 主張を何らしておらず,単に記述的な (descriptive) 主張をしているだけである,と論じる。*1「言われてみれば当然」というくらいにごく素直な解釈だと思う。第2節の「指令的でない」ことの論証はあまり robust でないが,結論そのものには異論はない。

*1:英米系の倫理学の言葉づかいや概念枠組みに慣れていないと,テクスト解釈のいわばメタ言語のレベルでニュアンスを拾いそこねる可能性がある,と感じた。勉強が必要。

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