松村一男『神話学入門』
- 松村一男『神話学入門』講談社学術文庫,2019年。
『神話学講義』(角川書店,1999年) の文庫版。神話学の学説史。ミュラー,フレイザー,デュメジル,レヴィ=ストロース,エリアーデ,キャンベルの6人を中心に論じる。大学の講義を元にしたものらしく,叙述は平明。第一章が全体の簡便な梗概になっているので,大雑把に内容を知りたい場合はここを読めば良い。なお「学術文庫版あとがき」では,本書で概観された範囲以後の動きとして,ブルケルトやジラールの研究,およびヴィツェル,ベリョーツキンの「世界神話学」が挙げられている。個人的には古典学の枠内で何となく知っていた人々 (Cornford や Murray) の神話学史的な位置付けが少し分かったのが収穫だった (第4章)。
SEP「形而上学的根拠付け」Bliss and Trogdon, "Metaphysical Grounding" #1
滝口『ヘーゲル哲学入門』
川瀬和也さんのヘーゲル入門書紹介 (http://kkawasee.hatenablog.com/entry/2018/08/07/173302) で挙げられているものをちょっとずつ読む (長谷川本,加藤記事は既読)。
通時的にヘーゲルの思想を追うスタイルで書かれている。第1章は青年時代 (-1800),第2-4章はイェーナ時代 (1801-7,『差異論文』『体系構想』『精神現象学』),第5-6章はニュルンベルク・ハイデルベルク時代 (1807-18,『大論理学』『エンチュクロペディー』),第7章はベルリン時代 (1818-31, 『法 (権利) の哲学』)。解説される分野も様々でマッピングに好適と思う。
ただ最も叙述のウェイトが置かれている分野は政治・社会思想だと思われる。例えば著者は「ヘーゲル=国家主義の哲学者というイメージが,ながらく流布してきました。しかし,今日,このイメージはとうに過去のものになっています」(59頁) と述べ,対抗解釈を幾つかのテクストとその時局的背景の解説を通じて明快に示している。すなわちヘーゲルにとって,「私的利害に踏み荒らされない普遍的・公共的なものの樹立」ということが,神聖ローマ帝国期の草稿『ドイツ国制批判』(1799-1801, 3章2節)*1から「領邦議会論文」(1817-18, 5章2節) まで通底するモチーフであり,『法の哲学』における君主を頂点に頂く立憲君主制の支持もこれと同一の関心に基づくもので,むしろ同時代における君主権の中立化・抽象化 (コンスタン),実質的権限からの分離 (シャトーブリアン) といった着想と符合しているという (6章2節)。このあたりのこと全然知らないので勉強になった。