滝口『ヘーゲル哲学入門』
川瀬和也さんのヘーゲル入門書紹介 (http://kkawasee.hatenablog.com/entry/2018/08/07/173302) で挙げられているものをちょっとずつ読む (長谷川本,加藤記事は既読)。
通時的にヘーゲルの思想を追うスタイルで書かれている。第1章は青年時代 (-1800),第2-4章はイェーナ時代 (1801-7,『差異論文』『体系構想』『精神現象学』),第5-6章はニュルンベルク・ハイデルベルク時代 (1807-18,『大論理学』『エンチュクロペディー』),第7章はベルリン時代 (1818-31, 『法 (権利) の哲学』)。解説される分野も様々でマッピングに好適と思う。
ただ最も叙述のウェイトが置かれている分野は政治・社会思想だと思われる。例えば著者は「ヘーゲル=国家主義の哲学者というイメージが,ながらく流布してきました。しかし,今日,このイメージはとうに過去のものになっています」(59頁) と述べ,対抗解釈を幾つかのテクストとその時局的背景の解説を通じて明快に示している。すなわちヘーゲルにとって,「私的利害に踏み荒らされない普遍的・公共的なものの樹立」ということが,神聖ローマ帝国期の草稿『ドイツ国制批判』(1799-1801, 3章2節)*1から「領邦議会論文」(1817-18, 5章2節) まで通底するモチーフであり,『法の哲学』における君主を頂点に頂く立憲君主制の支持もこれと同一の関心に基づくもので,むしろ同時代における君主権の中立化・抽象化 (コンスタン),実質的権限からの分離 (シャトーブリアン) といった着想と符合しているという (6章2節)。このあたりのこと全然知らないので勉強になった。
チウ『ここではないどこかへの欲求』
SEP「論理学と存在論」 Hofweber, "Logic and Ontology" #2
- Thomas Hofweber (2018) "Logic and Ontology" The Stanford Encyclopedia of Philosophy (Summer 2018 Edition), Edward N. Zalta (ed.), pp.16ff.
記事「論理と存在論」の後半部 (第4章)。なお第5章「結論」は省略する。前半部では「論理学 (L)」「存在論 (O)」が以下のとおり分類された。後半部では,各々の意味での「論理学」と「存在論」の関係性を論じている。
- L1: 人工的形式的言語の研究
- L2: 形式的に妥当な推論と論理的帰結の研究
- L3: 論理的真理の研究
- L4: 判断の一般的特徴,ないし形式の研究
- O1: 存在論的コミットメントの研究
- O2: 何があるのかの研究
- O3: 存在者の最も基本的な特徴と関係の研究
- O4: メタ存在論の研究
論証理論における換位可能な命題の役割 Inwood, "A Note on Commensurate Universals"
- Brad Inwood (1979) "A Note on Commensurate Universals in the Posterior Analytics" Phronesis 24(3), 320-329.
共外延的命題と論証の説明力との繋がりを論じた論文。僅か10頁だが極めて内容が濃く難しい (明晰に書かれてはいると思うのだけど)。特に後半は汲み切れていない感じがする。
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