矛盾対立言明 Delcomminette (2018) Aristote et la nécessité, ch.3
- Sylvain Delcomminette (2018) Aristote et la nécessité, Vrin.
- 1ère partie. L'idéalisme langagier d'Aristote.
- ch.3. Le problème de la contradiction. 65-75.
- 1ère partie. L'idéalisme langagier d'Aristote.
命題の一性と項の一性
- 39 学知の言語は λόγος ἀποφαντικός すなわち必ず真/偽を容れる言明である.真/偽の選択は排他的・必然的である.ゆえに議論は否定と矛盾の地位の解明から始まる (DI).他方この問題は命題の一性 (unité) を前提する.
- 40 一つの命題は ἕν δηλῶν または συνδέσμῳ に一つ.また一 (une) / 多 (multiple) とは別に単純 ἁπλή / 複合 συγκειμένη の区別がある.ἁπλή な命題は肯定命題と否定命題に分かれる (DI 5).
- 肯定/否定命題が一つであるとは,一つのことを一つのことについて肯定/否定すること.したがって命題の一性は項の一性と結びついている.
- 41 項の一性とは単なる名辞の一性ではない.また量の問題でもない: 量化の係る先は項ではなく述定的結びつきであって,項の一性とは独立である.
- 42 むしろ項の一性とは意味の一性である.
- 述語に関する否定的特徴づけ (20b31-33): 同一の主語に付帯的に語られるものどもは一つではない (白かつ教養的).冗長な表現も一つではない (人間-動物).
- したがって,一つであるのは:
- 一方が他方に含まれない本質的諸規定 (二足の動物),
- 単一の付帯的規定 (教養的),
- 一方が他方に含まれない本質的諸規定と,単一の付帯的規定 (白い人間),
- 無規定的な語 (19b7-10.〈非人間〉,〈健康でありはしない〉),
- 単称項 (ソクラテス).
- 各々の場合に一性のタイプは異なる.DI が立ち入らない (17a13-15) この問題は Met. で再浮上する (§342-350).
- したがって,一つであるのは:
- 述語に関する否定的特徴づけ (20b31-33): 同一の主語に付帯的に語られるものどもは一つではない (白かつ教養的).冗長な表現も一つではない (人間-動物).
- 43 多なる命題「ソクラテスは教養的な白いものである」は単純命題 (e.g., 外套 := 教養的な白いもの) とみなすことも,二つの命題とみなすこともできる.多なる単純命題 (例: ソクラテスは教養的な白いものである) は一つの複合命題 (ソクラテスは教養的であり,かつ,ソクラテスは白い) に変換できる.
- これによって一なる命題と多なる命題の混同を防げる; そうした混同は PNC を危うくする.
矛盾と否定
- 44 同一の主語・述語について肯定的言明と否定的言明の組が矛盾言明として定義される.これについて RCP (= 二値原理 + 二者択一律 le loi de l'alternative (Blanché 1970: 真なる言明の矛盾言明は偽,偽なる言明の矛盾言明は真)) が示される.
- RCP = PNC + PEM + 二値原理.
- Γ は PNC と PEM を区別するが,一般的にアリストテレスはこれらをあたかも等価のように扱っており,RCP の三側面のようにみなしているように思われる.(cf. Met. I 7, 1057a35-36 における矛盾言明の定義).
- 45 矛盾言明の定義は矛盾言明が各々一であることを前提している.さもなければ RCP は成り立たない.命題の一性が前提する項の一性は意味論的一性だが,この場面では,意味表示の対象 (la chosesignifiée) ではなく (§42),意味表示 (signification) の単一性が問題になる.言い換えれば同名異義的なものが排除される (Bobzien 2007; contra Ackrill, Whitaker).意味表示が単一でない項を含む命題は RCP のスコープに入らない (DI 8).
- 46 否定辞が入れば命題の否定になるわけではない.否定辞は項に付くのではなく (その場合は不定名辞ができる) 項の関係に付く必要がある (τὶ ἀπὸ τινός).
- コピュラ文は est を n'est pas に変えれば否定になる.動詞の場合はコピュラ + 述語に分解すれば同様の操作ができる.
- 47 量化命題の場合も事情は同様である: 否定も量化も項の結びつきに関わるので,全称肯定言明の否定は特称否定言明になる (DI 7, 10).
- 48 したがって正確には,コピュラの前に否定辞が付くだけで矛盾言明になるのは主語が特称項の場合だけであり,全称項の場合は量化が必要である.