マンシェット『愚者が出てくる,城寨が見える』

6年前に梅田の紀伊國屋で「ほんのまくら」フェアというのをやっていて,そこで買った本だったと思う。買ったはいいが一ページ目から人間が惨殺されるのでついていけずに読みさした記憶がある。その後『仁義なき戦い』シリーズを観るなどしてある種のテンポに慣れたのか,今回は面白く読めた。登場人物は皆ことごとく常軌を逸していて,ハードボイルドな文体が彼らの暴力と破壊を次から次へ描き出す。その限りで「アンチモラルな生存競争の寓話」(235頁) という訳者の要約は一面を捉えてはいるが,他方ペテールを核とする善玉悪玉の構図ははじめから明確で,この構図がどんでん返しの快感と結末のカタルシスを準備していることも確かだ。