アリストテレスの関係理論の形而上学的含意 Morales (1994) "Relational Attributes in Aristotle"

  • Fabio Morales (1994) "Relational Attributes in Aristotle" Phronesis 39(3), 255-274.

Ackrill が提起した関係カテゴリー解釈上の問題を三つ論じる:

  1. Cat. 7 の二つの定義,
  2. 実体の部分の擬関係的性格,
  3. Δ15 の三分類.

そして,アリストテレスの実体と属性の定義において関係が明確な役割を果たすと論じる.

I

  • 関係的属性についてのアリストテレスの理論は著作間でそれほど大きく変化していない (アプローチが違うだけ).
  • アリストテレスは関係ではなく関係するもの (things related) に重点を置く.また "slavery" の代わりに "the slave" に言及する.奴隷カリアスが関係項だというわけではなく,奴隷である限りの (in so far as) カリアスが関係項だということ.
  • Cat. の定義から検討する (D1, 6a36-b2).

II

  • (D1) が関係カテゴリーを言語的・文法的観点から定義しているとすれば,「奴隷」「知識」「感覚」などが当てはまらなくなる.
  • 他方,単に何かと関係するという事実だけだと,要件として広すぎる.例えば全ての非実体は実体のうちにあるという仕方で関係項たりうる.
    • 以下では実体の部分に焦点をあわせる.

III

  • 関係項から実体の部分を除外するために第二定義が行われる (D2, 8a28-35).
  • 一般に D1 は secundum dici, D2 は secundum esse と解される.そして D2 では相関項を「確定的に知る」必要性が付け加えられる.
    • Ackrill は D2 が強すぎると指摘する: カリアスが奴隷であることは,主人が誰かを知ることなしに知りうる.
      • だが,その程度のことはアリストテレスも考えていただろう.以下では解釈の代案を提示する.
  • 代案:
    • D1 は,述定が主語 (例:カリアス) と相関項 (例:主人である誰か) の存在を含意するような述語を関係項と定義している.
    • D1 において述語は不確定的である: 「二倍である」「より大きい」などが真/偽な文を作るには,どの相関項を意図しているかが明確化されねばならない.
      • 「父」「奴隷」は必ずしもそうでないが,それでも何らかの関係に立つことを示唆する.
      • 関係的述語の不確定性にプラトンアリストテレスは気づいている.例えば LNC 擁護論を見よ.また Cf. Met. N1, 1088a29-b1 (関係項は最も実体から遠い.ケンブリッジ変化があるから).
    • 何かが相関項であるための条件は,それが存在すること,および特定の関係語の意味が含意する諸条件を満たすことである.
    • 「手」が関係項でないのは,全体への参照が既に定義に含まれているからである:「手」を「身体の手」と言うことは冗語的である1
      • 獅子鼻に関する SE 173b5-11, Met. Z5 の議論はこの区別の重要性を裏付ける.
      • Cf. Cat. 8: 読み書きの知識は質だが,その類である知識は関係項.これは知識が対象領域により確定されることを意味する.
      • ゆえに「手」は確定的であり,その〈あること〉は〈なにかと何らか関係していること〉と同一ではない.したがって D2 で弾ける.
  • 関係的な類は全て非関係的なものに確定できるのではないか,という疑義はある.ただし次節では,アリストテレスが非関係的実体に置換可能な関係項とそうでないものとを区別していた可能性に触れる.

IV

  • Δ15 では関係項が κατ᾽ ἀριθμόν, κατὰ δύναμιν, ὡς τὸ μετρητὸν πρὸς τὸ μέτρον に分けられる.

  • κατ᾽ ἀριθμόν: 二倍-半分,三倍-三分の一,超過-過小など.

    • ただし〈類似〉〈等しい〉といった質・本質を基準とするものも含まれる.
      • そもそも二倍 etc. の量的表現も〈等しくない〉の種別化とみなせる.
  • κατὰ δύναμιν: 熱しうるもの-熱されうるものなど.
    • これらは能動-受動の種であり因果関係を伴う.
  • ὡς τὸ μετρητὸν πρὸς τὸ μέτρον: 知識-可知的なものなど.

    • これらは関係項の一方 (例: 可知的なもの) が自律的である点で他と異なる.
    • かつ一方に論理的先行性がある: 一方が他方の確定に用いられうる (例: 音→音楽の知識).
    • τὸ μέτρον は,グループ1と異なり,ここでは比較の手段ではなく関係項の一方をなしている.
  • 翼-有翼のもの (Cat. 7a4) はグループ3に分類できる.部分-全体の種だからである.

  • 「態勢 (position)」が関係的なのも,特定のもの・状態に相対的だからである (lying := the position of an animal that rests horizontally.ただし lying そのものは態勢カテゴリー).「状態」なども同様.

V

以上の形而上学的含意を探る.

  • アリストテレスは関係カテゴリーを作ることで関係項の実在性を認める一方,関係項が「最もウーシアーでない least real」(1088a29) とも述べる.彼にとって関係的属性は相関項を含まないために不確定だからである.
    • 他方,実体的・質的・量的確定が同一性・類似性・等しさの確定可能性と内的に結びついていること,また,もののものへの作用の仕方がその本性の構成要素をなし,関係を用いてのみそうした現象を捉えうること,にアリストテレスは当然気づいていたはずである.このことは,Γ や I で存在する限りの存在の学に〈同〉-〈異〉などの最も一般的な関係項を含めた理由の一つであろう.
  • 関係には個別の実体をまとめて κόςμος にするという役割もある.ものが先行するものから定義されつつ存在論的自律性を失わない場合があるのはこのためである.
  • Δ15 でグループ3が区別されたのは,関係的な類 (relational genera) の場合,関係が関係項の一方にとって「内的」であることを示すためである.
    • この非対称性は部分/全体や質料/形相に見られる: 質料は関係的だが (Phys. 194b9f.2) 形相はそうではない.
    • 「獅子鼻の鼻」の冗長性に関する Z5 の議論は,アリストテレスが付帯性が関係項と同様の確定を被る,すなわち基礎に置かれるものの変容として確定される必要がある (したがって基礎に置かれるものを前提する) と考えていたことを示している.
      • 実体を付帯性とともに定義する必要性は,個々の存在者をそれ自体で定義するだけでなく,世界における各々の関係を説明する必要から生じる.
  • Γ2 の πρὸς ἕν 関係も,彼の関係理論から部分的に説明できるかもしれない.

  1. これを「奴隷」の場合と比較するのは面白いかもしれない (reciprocity).

  2. 原文は数字を typo している.