意味論的外在主義の演繹的導出 Yli-Vakkuri (2018) "Semantic Externalism without thought experiments"

  • Juhani Yli-Vakkuri (2018) "Semantic Externalism without thought experiments" Analysis 78(1), 81-90.

著者は Narrow Content の共著者.着想の核心は §3 に示されている.


  1. 今日の外在主義の承認は Putnam (1975) の双子地球などの思考実験によるところが大きい.本稿では,近年 Williamson (2013) が認識論理の自然なモデルを用いて JTB の反例を思考実験によらずに示したように,外在主義を一般的原理から演繹的に示す.
    • 著者は必ずしも思考実験に反対ではないが,演繹的議論のほうが問答法的に強力である.またシナリオに拘泥して一般原理を見失うとよくない.
  2. 簡便のため信念のみを扱う.他の命題的態度や言語行為には mutatis mutandis に成り立つ.ここで信念はトークンである (同一の信念を複数の人が共有しない).
    • 外在主義は,信念の内容 (that 節が特定するもの) が主体の内在的なあり方および主体と信念の内在的な関係の仕方により確定しない,という主張である.
    • 先行研究に従い狭さ (narrowness),複製 (duplication),対応 (correspondence) というアイデオロジーを用いてより明確化する:
      • 内的に同じものを複製 (duplicates) と呼ぶ.
      • S と S' が複製であるとき,S の各部分は S' の各部分に対応する.(例: 複製である二つの主体の一方のもつある信念は他方のもつある信念に対応する.)
      • 信念の性質 P が狭い iff. 必然的に,複製である二つの主体のもつ対応する全ての信念の対について,(対の一方が P iff. 他方が P).
        • P が広い (narrow) iff. P が狭くない.
    • 信念のもつ意味論的性質には明らかに広いものもある (例: 真理).外在主義とは,内容が広い性質だという主張である.その否定を内在主義と呼ぶ.
    • この特徴づけは既存の文献,就中 Putnam の原論文に沿う.ここでは Putnam に従い,狭さを内的なものへの弱い付随 (weak supervenience) として特徴づけている.これを否定できれば強い付随も否定できる.
  3. 形式言語で論証を提示する.C は〈複製である主体の対応する信念である〉を意味する二項述語.cは内容,vは真理値を表す関数である.
    • このとき内在主義とは: (NarrowC) \Box\forall x\forall y(C(x,y)\rightarrow c(x)=c(y))
    • (NarrowC) 批判は二つの前提からなる:
      • (BroadT) \lnot\Box\forall x\forall y(C(x,y)\rightarrow v(x)=v(y))
      • (Transparency) \Box\forall x(v(x)=v(c(x)))
    • このとき {Transparency, BroadT, NarrowC} は (様相論理 K でさえ) 矛盾する.
  4. 上記論証に対する反論は二通りありうるが,いずれもうまくいかない.(いずれの戦略も Lewis (1979) の次の所見に基づく: 内在主義者は相対主義者でなければならない――信念の内容が主体と時に相対的に異なる真理値をもちうると認めねばならない.)
    • 一つは Transparency の否定.しかしこれを主張した内在主義者はなく,また主流の相対主義の精神にも反する.例えば MacFarlane (2011: 442) も引用解除的真理観を擁護している.
      • Transparency に対する反例は,(i) p,かつ主体 S の p だという信念は偽,(ii) p は成り立たないが,S の p だという信念は真,のいずれかになる.だがこれらは不条理 (実例を考えれば明らか).
    • もう一つはよりラディカルに Transparency を無意味と見なすやり方.すなわちこれによれば,内容が端的に真ないし偽だと述べるのは無意味である.
      • この立場は上記の不条理には与しないが,不条理の否定に与することもできない.