『テアイテトス』152c-153d 秘密の教説の導入

Tht. 152c7-153d7. 新OCT.


ソクラテス では,カリスの女神たちの名において,プロタゴラスはいわば非常な知者であって,私たち有象無象の大衆にはこのことを謎めいた物言いで示し,学徒たちには秘密のうちに真理を語っていたのではないだろうか.

テアイテトス それは一体どういうことをおっしゃっているのですか,ソクラテス

ソクラテス 私がこれから話そう.全くのところ,それは簡単な言論ではないのだ.すなわち,何ものもそれ自体として一つではなく,また君は,正しく「何かである」と呼ぶことも,何であれ何らかの種類のものであると呼ぶこともできない.むしろ,大きいものとして呼ぶ場合には,小さいものとしても現れるのであり,重い〔ものとして呼ぶ〕場合には,軽いもの〔としても現れるの〕であって,万物がこのようにあるのだ.何ものも一つの何かではなく,何らかの種類のものでもないのだから.実際,私たちが「ある」と現に主張している万物は,移動や運動や混合から互いに生じるのであり,私たちがそう呼んでいるのは正しくないのだ.というのも,決して何ものもありはしないのであり,むしろつねに生成しているのだから.そしてこのことについては,パルメニデスを除く全ての知者たちがなみいって同意しているものとしよう.すなわち,プロタゴラスヘラクレイトスやエンペドクレス,また詩人たちのうちでも,二種の詩作の各々で最高の人々,すなわち喜劇ではエピカルモス,悲劇ではホメロスが.ホメロスは次のように言った−−

神々の源オケアノスと母なるテテュス

そしてそう言うことで,万物は流れと運動の子だと述べたのだ.そう言っていると思われないかね.

テアイテトス 私にはそう思われます.

ソクラテス それではさらに,これほどの数の軍勢と大将ホメロスに対して,一体だれが,論争をなし,嗤うべきありさまに陥らないでいられるだろうか.

テアイテトス 簡単なことではないでしょうね,ソクラテス

ソクラテス 簡単ではないとも,テアイテトス.次のことどももこの言論に十分な証拠となっているのだから.すなわち,「ある」と思われていること,すなわち「なる」ことは運動がもたらし,「ありはしない」こと,すなわち「消滅する」ことは静止がもたらすのだ,ということも.というのも,熱と火は他のものどもをも生んで管理するが,自らは移動と摩擦から生じるのであり,この両者はともに運動なのだ.火の源はこれらではないだろうか.

テアイテトス それらです.

ソクラテス そしてまた,生き物どもという種族はまさにこれら〔熱と火〕から生まれるのだ.

テアイテトス もちろん.

ソクラテス ではどうだろう.身体の状態は静止すなわち怠惰によって破滅させられ,鍛錬すなわち運動によって多くの場合は保たれるのではないか.

テアイテトス ええ.

ソクラテス 魂のうちなる状態は一方で学習と練習によって−−これらは運動だが−−学びを得て,これを保ち,より良いものとなるのだが,静止によって−−すなわち怠慢と学習の欠如であるが−−何ごとも学ばず,また学んだことも忘れるのではないか.

テアイテトス その通りです.

ソクラテス したがって,魂と身体に即して善いものとは運動である一方,そうでないものはその反対なのではないか.

テアイテトス そう思われます.

ソクラテス それゆえさらに,無風や凪やそうしたものども全てについても,静止は腐敗させ破滅させるが,そうでないものどもは保存するのだと,私は君に言おう.またこれらに加えて,仕上げに,黄金の綱を付け加えて,必然的なものとしよう.ホメロスは他ならぬ太陽のことをそう述べており,天球と太陽が運動する限りは,神々と人間たちのうちにある万物はありかつ保たれるが,これが縛られたように静止すると,全てのものは消滅し,万物はいわゆる「上を下へ」の状態になるだろうことを明らかにしているのだ.

テアイテトス いや私には,ソクラテス,あなたが仰るとおりのことを,彼は明らかにしているように思われます.

Σωκράτης ἆρ᾽ οὖν πρὸς Χαρίτων πάσσοφός τις ἦν ὁ Πρωταγόρας, καὶ τοῦτο ἡμῖν μὲν ᾐνίξατο τῷ πολλῷ συρφετῷ, τοῖς δὲ μαθηταῖς ἐν ἀπορρήτῳ τὴν ἀλήθειαν ἔλεγεν;

Θεαίτητος πῶς δή, ὦ Σώκρατες, τοῦτο λέγεις;

Σωκράτης ἐγὼ ἐρῶ καὶ μάλ᾽ οὐ φαῦλον λόγον, ὡς ἄρα ἓν μὲν αὐτὸ καθ᾽ αὑτὸ οὐδέν ἐστιν, οὐδ᾽ ἄν τι προσείποις ὀρθῶς οὐδ᾽ ὁποιονοῦν τι, ἀλλ᾽ ἐὰν ὡς μέγα προσαγορεύῃς, καὶ σμικρὸν φανεῖται, καὶ ἐὰν βαρύ, κοῦφον, σύμπαντά τε οὕτως, ὡς μηδενὸς ὄντος ἑνὸς μήτε τινὸς μήτε ὁποιουοῦν: ἐκ δὲ δὴ φορᾶς τε καὶ κινήσεως καὶ κράσεως πρὸς ἄλληλα γίγνεται πάντα ἃ δή φαμεν εἶναι, οὐκ ὀρθῶς προσαγορεύοντες: ἔστι μὲν γὰρ οὐδέποτ᾽ οὐδέν, ἀεὶ δὲ γίγνεται. καὶ περὶ τούτου πάντες ἑξῆς οἱ σοφοὶ πλὴν Παρμενίδου συμφερέσθων, Πρωταγόρας τε καὶ Ἡράκλειτος καὶ Ἐμπεδοκλῆς, καὶ τῶν ποιητῶν οἱ ἄκροι τῆς ποιήσεως ἑκατέρας, κωμῳδίας μὲν Ἐπίχαρμος, τραγῳδίας δὲ Ὅμηρος, <ὃς>1 εἰπών—

Ὠκεανόν τε θεῶν γένεσιν καὶ μητέρα Τηθύν

πάντα εἴρηκεν ἔκγονα ῥοῆς τε καὶ κινήσεως: ἢ οὐ δοκεῖ τοῦτο λέγειν;

Θεαίτητος ἔμοιγε.

Σωκράτης τίς οὖν ἂν ἔτι πρός γε τοσοῦτον στρατόπεδον καὶ στρατηγὸν Ὅμηρον δύναιτο ἀμφισβητήσας μὴ οὐ καταγέλαστος γενέσθαι;

Θεαίτητος οὐ ῥᾴδιον, ὦ Σώκρατες.

Σωκράτης οὐ γάρ, ὦ Θεαίτητε. ἐπεὶ καὶ τάδε τῷ λόγῳ σημεῖα ἱκανά, ὅτι τὸ μὲν εἶναι δοκοῦν καὶ τὸ γίγνεσθαι κίνησις παρέχει, τὸ δὲ μὴ εἶναι καὶ ἀπόλλυσθαι ἡσυχία: τὸ γὰρ θερμόν τε καὶ πῦρ, ὃ δὴ καὶ τἆλλα γεννᾷ καὶ ἐπιτροπεύει, αὐτὸ γεννᾶται ἐκ φορᾶς καὶ τρίψεως: τούτω δὲ κινήσεις. ἢ οὐχ αὗται γενέσεις πυρός;

Θεαίτητος αὗται μὲν οὖν.

Σωκράτης καὶ μὴν τό γε τῶν ζῴων γένος ἐκ τῶν αὐτῶν τούτων φύεται.

Θεαίτητος πῶς δ᾽ οὔ;

Σωκράτης τί δέ; ἡ τῶν σωμάτων ἕξις οὐχ ὑπὸ ἡσυχίας μὲν καὶ ἀργίας διόλλυται, ὑπὸ γυμνασίων δὲ καὶ κινήσεως ἐπὶ πολὺ σῴζεται2;

Θεαίτητος ναί.

Σωκράτης ἡ δ᾽ ἐν τῇ ψυχῇ ἕξις οὐχ ὑπὸ μαθήσεως μὲν καὶ μελέτης, κινήσεων ὄντων, κτᾶταί τε μαθήματα καὶ σῴζεται καὶ γίγνεται βελτίων, ὑπὸ δ᾽ ἡσυχίας, ἀμελετησίας τε καὶ ἀμαθίας οὔσης, οὔτε τι μανθάνει ἅ τε ἂν μάθῃ ἐπιλανθάνεται;

Θεαίτητος καὶ μάλα.

Σωκράτης τὸ μὲν ἄρα ἀγαθὸν κίνησις κατά τε ψυχὴν καὶ κατὰ σῶμα, τὸ δὲ τοὐναντίον;

Θεαίτητος ἔοικεν.

Σωκράτης ἔτι οὖν σοι λέγω νηνεμίας τε καὶ γαλήνας καὶ ὅσα τοιαῦτα, ὅτι αἱ μὲν ἡσυχίαι σήπουσι καὶ ἀπολλύασι, τὰ δ᾽ ἕτερα σῴζει; καὶ ἐπὶ τούτοις τὸν κολοφῶνα, ἀναγκάζω προβιβάζων3 τὴν χρυσῆν σειρὰν ὡς οὐδὲν ἄλλο ἢ τὸν ἥλιον Ὅμηρος λέγει, καὶ δηλοῖ ὅτι ἕως μὲν ἂν ἡ περιφορὰ ᾖ κινουμένη καὶ ὁ ἥλιος, πάντα ἔστι καὶ σῴζεται τὰ ἐν θεοῖς τε καὶ ἀνθρώποις, εἰ δὲ σταίη τοῦτο ὥσπερ δεθέν, πάντα χρήματ᾽ ἂν διαφθαρείη καὶ γένοιτ᾽ ἂν τὸ λεγόμενον ἄνω κάτω πάντα;

Θεαίτητος ἀλλ᾽ ἔμοιγε δοκεῖ, ὦ Σώκρατες, ταῦτα δηλοῦν ἅπερ λέγεις.

要約

  • プロタゴラスの秘密の教説:
    • 何ものも,それ自体として一つではない.
    • 何ものも,「何かである」とも「何らかの種類である」とも呼べない.
      • 例:「大きい」と呼ばれるものは,小さいものとしても現れる.
    • 何ものも,何かで「ある」わけではなく,むしろ何かに「なっている」.
      • 運動から互いに生じるから.
  • 流動説の証拠:
    • 知者たちの同意.プロタゴラスヘラクレイトス,エンペドクレス,エピカルモス・ホメロス
    • 「ある」と思われていること = 「なる」ことは運動がもたらし,「ありはしない」こと = 「消滅する」ことは静止がもたらす.
      • 運動が火をもたらす一方,火が他のもの (生き物など) を生み出し管理する.
      • 魂と身体にとって善いのは運動であり,悪いのは静止である.
        • 身体は静止によって破滅し,運動によって保たれる.
        • 魂は静止によって忘れ,運動によって学びを保つ.
      • 無風はものを腐敗させ,運動 (風) は保つ.
      • 天球や太陽の運動は万物を保ち,静止は破滅させるだろう.

先行研究

Cornford:

  • ヘラクレイトス説からは二つの命題が取り出せる.
    1. どんな反対者も,それ自身の反対者を離れては存在し得ない.(例: 重いものはつねに軽い.)
      • プラトンにおいて,これは感覚的事物の特徴をなす (Rep. 479aff.: 美のイデア以外の美しいものは醜くも現れる).
      • プロタゴラスも「風は熱くも冷たくもある」とする限りで同じ意見である.
    2. 私たちが「ある」と言うものは,じつは「ある」のではなく,「なっている」のだ.

McDowell:

  • 「それ自体として一つではない」:
    • (解釈1)「両立不可能な他のものであることなしに或る一つのものである」ことはない (例: 軽いものであることなしに重いものでありはしない).Cf. Tim. 49b2-5, c7-d3.
    • (解釈2)「何かと相対的にでなしに或る一つのものである」ことはない (例: 何かと相対的にしか重いものではない).Cf. 157a8-b1, 160a5-c3.
  • McDowell は解釈1を採る.
    • 解釈2に従うなら,「性質は物に端的に帰属されるわけではなく,感覚者と相対的に帰属される」と述べていることになる.
      • この場合,「ある」を拒否して「なる」と言い表す眼目は,(例えば) 白さの生成が物と他のものとの相互作用を通じたものだということにある.
    • だが,解釈2は,以下の4点から疑わしい4
      • 教説が性質だけでなく「何であるか」にも当てはまるという事実を無視している.
      • 感覚的世界の根本的な不安定さが説明されずに残る (相互作用が安定的であることを前提している).
      • 「「ある」を「なる」に置換すべきだ」と感覚を詳しく記述する前に言っても説得力がない.相対主義との関係もここでは前景化していない.
      • Tim. で明示される「ある」ものと「なる」ものの二元論との明白な並行性を無視している.
    • したがってむしろ,「ある」の拒否を焦点化する解釈を採る.
      • 「φ であるものが ¬φ とも現れる」ということと,「現れるとおりにある」という原理から,矛盾が帰結する.帰謬法により「ある」の使用が拒否される (cf. Rep.).
      • 問題は,(1)「誰それにとって」と限定すれば矛盾が帰結しそうにないこと,(2)「なる」の採用が正しい対処法である理由が不明瞭なこと.
        • おそらくプラトンSph. 以前に次のようなパルメニデス的立場を受け入れていたのだと考えられる:
          • 或る仕方で f でありはしないものは,厳密にはいかなる仕方でも f であるわけではない.
        • そして,「「ある」ものだけが有意味に語られ,あるいは思考されうる」という原理を修正して,「ある」という語を用いて記述できる領域と,「なる」という語が同じ役割を果たす領域の区別に至った.
    • ただし,「何であるか」についても同様の議論が可能かは疑わしい.
  • 根本的な不安定性は (1) 質的不安定性 (いかなる種類か) と (2) ものが時間的に持続しない (何であるか) に分けられる.
    • xf になっている」は過程を指すとも過程の端点を指すとも捉えうる.どちらで取るかで不安定性の内実は異なる.
    • (2) が秘密の教説からなぜ帰結するのかは不明瞭である.
  • 秘密の教説はプラトンに属する議論 (Platonic argument) である.ヘラクレイトスへの帰属はまともに受け取るべきではない.

Burnyeat:

  • Reading A によれば,秘密の教説はプラトンの以前の見解を示している.Reading B によれば,むしろ直前で受け入れたプロタゴラス説の明確化である.

  1. add. Heindorf.

  2. κίνησις-ἡσυχία とその実例で chiasmus が見られる.

  3. post κολοφῶνα add. ἀναγκάζω βTW Berl.: secl. Cobet | προσβιβάζω Cobet: προσβιβάζων TW Berl., schol. vet.: προβιβάζων β Stob. 新OCTの読みは Cobet に従っている.

  4. いまのところどれもあまり説得力を感じない.