人工物の本質 Wiggins (2001) SSR, 4.11-12

  • David Wiggins (2001) Sameness and Substance Renewed, Cambridge University Press.
    • Chap.4. Individuative essentialism. §11-12 (pp.133-138).

§11. 人工物の本質と人工物の素材

  • 問い: 3章の問題に応答する形で人工物が存続する必要条件を特定できたとして,それは人工物に関する de re な必然性の基盤となるだろうか.
    • ここまで同様ここからも,(1) ものの存続条件の問いと,(2) ものが実在するという条件のもとでのみ当のものに関して思い描きうるものは何かという問いとを峻別する.そしてここでは,(2) の問いに集中する.
  • 一方で,あるテーブルが実際ほど磨かれていない・高くない・面取りされていないことは,当のテーブルが実在するという条件のもとで (のみ) 考えうる.
  • 他方で,それがテーブル (や同様の用途の家具) でないことは考えうるだろうか.――従前の議論と類比的な理由から,不可能である.
    • これら両極のあいだにある de re な必然性を探求しよう.
  • 問い: 別の木材から作られていることを真正な仕方で思い描きうるか.答え: 可能.
    • あるテーブルを構成し,それを他のものと区別するものは,当の部品に大工が加えた諸行為の結果に他ならない.しかし,そうした仕方で私たちが示しうることは全て,別の素材から作られた可能性と両立する.
      • もちろん,実際の来歴に照らせば,当の素材しか入手できなかった,といった事情が明らかになるかもしれない (定言的に 'could have been differently constituted' と主張できるとは限らない).それでも,当のテーブルが別の素材からなるような可能世界はありうる.
  • 問い: では,私のテーブルに非常に似たテーブルが,質的に似た二つの世界の各々にあるとして,一方のみを私のテーブルと同定することもできるのか.答え: できる.
    • 問い: 私のテーブルの素材が世界1にだけある場合に,世界2のテーブルだけと同定することもできるか.答え: できる (できない理由がない).
    • 問い: 二つの世界が質的に識別不可能な場合は,どうやって同定するのか.答え: その場合,素材が異なると主張できるのは,どれが現実の部品かに関する想定に基づいてでしかない.したがって,「その想定に基づいて」が答えになる.

§12. 特殊な種類の人工物: 芸術作品とその本質

  • 結論: 特定の種類の人工物の諸概念は,特定の種類の自然物の諸概念より,実例に与える de re な必然性に富むということは期待できないように思われる.
    • また,§10 の第3段落で構築したような述語が表すような属性を除けば,特定の人工物の必然的属性が,それらに論理的に特有であることはない.
  • 問い: すると,スコトゥス的な個別的本性の理論に近いものが成り立つような人工物種はありえないのか.
    • ある事例が,そうした理論が適用可能な事例であるためには (あるいは,その近似であるためにさえ): 実例が何であるか・どれであるかを理解するために,無数の特殊な詳細が実例の同一性に中心的であり,それらすべてが現れていることに実例の完全無欠性 (integrity) が依存し,それらの事実上全てに実例の実在が依存しているほどに中心的である,のでなければならない.
      • そのとき,そうした諸属性の中心的集合のどんな変化も,ものの破壊・交換への明確な一歩と見なされる.
      • そうした種類の人工物種は,個体すなわち素材的特殊者 (material particular) でなければならず,単なるタイプであってはならない.
  • カンヴァス画 (easel pitcures),彫像 (carved sculptures),フレスコ画はそうした要件を満たすものに最も近い.
    • 西洋文化 (やそのほか特定の諸文化) において,芸術家は,道具的・非感性的な仕方で特徴づけられえず,作品を個別化する重要な諸特徴の全体とは独立には同定できないような効果を持つ,と彼が期待する何ものかを作っていると考えられている.
      • その帰結として,それらの諸特徴に加えられるどんな干渉も,(徐々にであれ) 作品の抹消や破壊の危機に陥らせる.
    • また,作品はイメージの単なる複製・増殖とはみなされない.
    • 最後に,芸術家が用いる素材的手段 (material means) に,その効果と同等の重要性が認められる.
  • 活動の原理が自然物に対して完全な仕方でなすこと,日常的な人工物の機能が人工物に対して不完全な仕方でなすことを,芸術家による作品制作・結果・効果の捉え方は絵画に対してなす.芸術作品には法則的原理も機能もないが,しかしねらい (aim) はあり,それが特殊な de re 必然性を生み出しうる.
  • 結論: 芸術作品は必然的に,その芸術家自身の暗黙的・明示的に実践上実現されている考慮に本質的に現れている,諸特徴の豊かな複合を有している.
    • この限りで,芸術作品の観念論的説明は一片の真理を残している.
    • 一方で,こうした特別なものどもの捉え方は,日常的な実体や日常的な人工物の捉え方とは異なる.