『メタフュシカ』Γ5 #1 反無矛盾律とプロタゴラス主義の親和性.その動機

Met. Γ5 1009a6-38.


[1009a6] プロタゴラスの議論も,同一の判断から出ている.そして両者ともが,同様に,あるかありはしないかであることは必然である.というのも,判断されていることや現れていること全てが真であるのなら,全てが真でありかつ偽であることは必然であるから.というのも,大半の人々は,互いと反対のことを想定しており,かつ自分たち自身と同じことを判断していない人々は虚偽に陥っていると考えているから.したがって,同じことがありかつありはしないことは必然である.そして,もしそうなら,思われていること全てが真であることは必然である.というのも,虚偽に陥り,かつ真理を得ている人々は,互いに対立することを判断しているから.それゆえ,〈あるもの〉どもがそのようにあるのなら,万人が真理を得ていることになる.それゆえ一方で,同一の思考から両方の議論が出ていることは明らかである.

[1009a16] 他方で,全ての人々に対して,話し合いという同一のやり方があるわけではない.というのも,或る人々には説得が必要であり,或る人々には実力が必要だから.というのも,一方でアポリアーに陥ったことからこのように想定した限りの人々の無知は治療しやすいが (というのも,彼らへの応答は,言論に対してではなく,思考に対するものだから),他方で言論のために語る限りの人々の論駁は,音声における言論と名辞における言論の治療1だから.

[1009a22] アポリアーを経た人々には,感覚からこの判断が生じた.すなわち一方で2,矛盾対立言明や反対の事柄が同時に属するだろうという判断が,同じものから反対のことが生じるのを見た人々に生じたのだ.したがって,〈ありはしないもの〉が生成することがあってはならないのであれば,両方である事物が先在する.ちょうどアナクサゴラスが「全てが全てのうちに混ざっている」と主張し,またデモクリトスが主張しているように.というのも彼は,空虚と充実体はいかなる部分に関してもあるが,これらの一方は〈あるもの〉,他方は〈ありはしないもの〉だと〔主張しているから〕.

[1009a30] さて,これらの事柄から想定する人々に関して,我々は,「或る仕方では正しく語っており,或る仕方では無知である」と述べる.というのも,〈あるもの〉は二通りに語られるのであり,したがって何かが〈ありはしないもの〉から生じると語ってよいやり方はあるが,そう語ってはならないやり方もある.また,同時に同じものがありかつあらぬものではあるが,同じ〈ある〉に即してではないのだ.というのも,可能態的には同じものが反対者であってよいのだが,現実態的にはそうであってはならないから.さらに,この人々は,運動も消滅も生成も全くもって帰属しない,〈あるもの〉の何か他の本質ウーシアーをも想定するのが相応しいだろう.

要旨

  • 現れが全て真 \Leftrightarrow 任意の事柄があり,かつありはしない.
    • 現れが全て真なら,任意の命題 p が真かつ偽である (∵ ある人は p,別の人は \lnot p と考え,前者は \lnot p を偽,後者は p を偽と考える).ゆえに,p はあり,かつありはしない.
    • 他方,p があり,かつありはしないなら,思われていることは全て真である.(∵ 真理を得,かつ虚偽に陥っている人々は反対のこと (p かつ \lnot p) を考えているが,仮定よりこれは真).
  • アポリアーに陥った人々は説得できるが,ためにする議論を行う人々には実力を用いる必要がある.
  • パターン1.アポリアー: P なるものと\lnot P なるものが生じるが (観察),〈ありはしないもの〉は生成しない (原則).結論: したがって,P かつ \lnot P なるものが先在する.
    • 批判: (a) 原則は部分的にしか正しくない:〈あるもの〉は二通りに語られる.(b)〈ありかつあらぬ〉のは可能態的にでしかない.(c) 帰結として〈ある〉に運動も生成消滅も帰属しなくなる3

先行研究

Cassin & Narcy:

  • 「同じ判断」(a6) とは何か.1007b18 以降では「プロタゴラスの言論」が同じ帰結をもつことが示されていたが,ここから6章末尾まではむしろ原因・理由が検討されている.「判断」という語は a23 にも登場し,これは反対者が共存する (simultaneité) という見解 (a23: アナクサゴラス) と現れが真であるという見解 (a38: プロタゴラス,自然学者) を指す.論証全体は,ヘラクレイトス主義者・プロタゴラス主義者,自然学者・ソフィストが同一の意見を共有しているということに存する.したがって,プロタゴラスの説の原因が原理の拒否である (Ross, Colle) と言うだけでは充分ではない.むしろこの判断とは,感覚対象の考察から出てくる,反対者の共存というヘラクレイトス的・自然学的な見解である4
  • Jaeger が ἀληθεύοντες の前に οἱ を補うのは誤り.この箇所はヘラクレイトス的仮説のもとでの真理と誤謬の不可分・互換的性格を示している.

Kirwan:

  • アポリアーに陥った人々の思考に対する治療」という主張は,「ヘラクレイトス主義者は自分の言っていることを信じていない」という Γ3, 1005b25-32 の主張と衝突する (there is some conflict).Hume が言うように,後者の描写のほうが鋭い (shrewder): パラドクスを本当に信じているわけではないが,しかし,ためにする議論をする人とも違う.

  1. よく分からない.

  2. この後の ὁμοίως δὲ … (a38) に対応する.

  3. Ross, Kirwan, C & N ad loc. には引かれていないが,明らかに Phys. I.8 (および I.3) の recapitulation.

  4. もちろん結局はそういうことになるのだと思うが,論証構造からすると単に「任意の命題が真かつ偽」との同値性を示しているだけにも見える.