『メタフュシカ』Γ4 #3 〈ありはしないこと〉に関する注記.問答法の規則

Met. Γ4 1006b34-7a20.


[1006b34] 人間でありはしないことについても,同一の議論がある.というのも,「人間にとっての〈あること〉」と「非人間にとっての〈あること〉」は異なるものを意味表示するから――白であることと人間であることも異なる以上は,そうなのである.というのも,前者はいっそう大きく対立し,したがって異なるものを意味表示するから.「白い」も本性上一個同一のものを意味表示するのであれば,再び,まさしく先ほど述べられたのと同じことを我々は述べる.すなわち,全てが一つであり,対立するもののみが一つであるわけではない.もしこのことがあってはならないのであれば,問われたことが答えられるなら,上述のことが帰結する.

ὁ δ᾽ αὐτὸς λόγος καὶ ἐπὶ τοῦ μὴ εἶναι ἄνθρωπον· τὸ γὰρ ἀνθρώπῳ εἶναι καὶ τὸ μὴ ἀνθρώπῳ εἶναι ἕτερον σημαίνει, εἴπερ καὶ τὸ λευκὸν εἶναι καὶ τὸ ἄνθρωπον εἶναι ἕτερον· πολὺ γὰρ ἀντίκειται ἐκεῖνο μᾶλλον, ὥστε σημαίνειν ἕτερον. εἰ δὲ καὶ [5] τὸ λευκὸν φήσει τὸ αὐτὸ καὶ ἓν σημαίνειν, πάλιν τὸ αὐτὸ ἐροῦμεν ὅπερ καὶ πρότερον ἐλέχθη, ὅτι ἓν πάντα ἐστὶ καὶ οὐ μόνον τὰ ἀντικείμενα.

[1007a8] ある人が端的に問うたときに否定言明も付け加えるなら,問われたことは答えられていない.というのも,同一のものが人間であり白いものであり,他の無数に多くのものであることを,何ものも妨げないから.だが同様に,これを人間であると言うのが正しいか否かをひとが問うとき,一つの意味表示するものが答えられねばならないのであって,「かつ白く大きい」と付け加えられるべきではない.というのも,付帯的な事柄は無限にあるので,述べつくすことは不可能でもあるから.そして,全てが述べつくされねばならないか,何も言われるべきではないかである.したがって同じように,同じものが人間であり人間でありはしないということが無数にあるとしても,「人間であるか」と問う人に対して,「同時にまた人間でありはしない」と付け加えつつ答えるべきではない.他の付帯する限りの事柄,あるかあらぬかである限りの事柄をも付け加えて答えるべきではない.それをするときは,対話していないのである.

εἰ δὲ μὴ ἐνδέχεται τοῦτο, συμβαίνει τὸ λεχθέν, ἂν ἀποκρίνηται τὸ ἐρωτώμενον. ἐὰν δὲ προστιθῇ ἐρωτῶντος ἁπλῶς καὶ τὰς ἀποφάσεις, οὐκ ἀποκρίνεται [10] τὸ ἐρωτώμενον. οὐθὲν γὰρ κωλύει εἶναι τὸ αὐτὸ καὶ ἄνθρωπον καὶ λευκὸν καὶ ἄλλα μυρία τὸ πλῆθος· ἀλλ᾽ ὅμως ἐρομένου εἰ ἀληθὲς εἰπεῖν ἄνθρωπον τοῦτο εἶναι ἢ οὔ, ἀποκριτέον τὸ ἓν σημαῖνον καὶ οὐ προσθετέον ὅτι καὶ λευκὸν καὶ μέγα. καὶ γὰρ ἀδύνατον ἄπειρά γ᾽ ὄντα τὰ [15] συμβεβηκότα διελθεῖν· ἢ οὖν ἅπαντα διελθέτω ἢ μηθέν. ὁμοίως τοίνυν εἰ καὶ μυριάκις ἐστὶ τὸ αὐτὸ ἄνθρωπος καὶ [17] οὐκ ἄνθρωπος, οὐ προσαποκριτέον τῷ ἐρομένῳ εἰ ἔστιν ἄνθρωπος, ὅτι ἐστὶν ἅμα καὶ οὐκ ἄνθρωπος, εἰ μὴ καὶ τἆλλα ὅσα συμβέβηκε προσαποκριτέον, ὅσα ἐστὶν ἢ μὴ ἔστιν· ἐὰν [20] δὲ τοῦτο ποιῇ, οὐ διαλέγεται.

要約

  • (「人間である」ではなく)「非人間である」を例に取っても,同じ議論はできる〔?〕.
    • (a)「白であること」と「人間であること」が異なるのだから,a fortiori に (b)「人間にとっての〈あること〉」と「非人間にとっての〈あること〉」は異なるものを意味表示する.
      • (a) の補強:「白であること」が一個同一のものを意味表示するなら,先述の議論より,矛盾律を認めない限り,「白い」と「人間」が同じことを意味表示することになる.
  • 問答法の規則.
    •  P か?」と問われたときに,「かつ  \lnot P だ」と答えるのはルール違反.
    • 一般に,「 P(x) か?」と問われたときに,「かつ  Q(x), R(x), S(x) ... だ」と答えるのはルール違反.
      • 全てを述べつくせないなら,何も言うべきではない.

先行研究

CN:

  • 1007a8-20
    • 問う側と答える側は峻別されており,ここを混同すべきでない.ἔρομαι は専ら能動態.ἀποκρίνεσθαι + dat. = répondre à qn (Ar. Nu. 1245; X. Oec. XIX.4)1.
    • 「付け加えて答える」ことを禁じる点で Γ の問答法は SE 17 や Top. の再定式化された問答法と異なる.Γ のほうがもとのソフィスト的問答法的実践に忠実 (cf. Euthd. 296a1ff.).
      • 「端的に問う」方法論は「一つのものを意味表示しなければ,何も意味表示していない」という規則に反する〔多義性が解消できないから〕.したがって,(1) 口やかましい答え手に対して突然ソフィスト的実践を引き合いに出したか,(2)「一つを意味表示する」と「要求された点に答える」が実は同じ要求だと考えねばならない.
      • そして,仮説 (2) の方が以下二点で尤もらしい.(i) 「人間かつ白かつ大きい」と答える者は,問いの多義性を保存しているのではなく,可能な応答を積み重ねている.(ii) 見落とされがちだが 'ἀποκρίνηται τὸ ἐρωτώμενον' と 'ἀποκριτέον τὸ ἓν σημαῖνον' はパラレル.一つを意味表示するのは問いの側.これに応答することが要求されている.SE とは状況が逆.

  1. 最初 προσ- だから与格を取っているのかと思ったが,一応 CN に従って理解する.