『魂について』III.3 #3 ファンタシアーは感覚でも信念でもない

DA III.3 427b27-428b2.


[427b27] 知性認識することについては,感覚することとは異なるが,知性認識の一方にはファンタシアーがあり,他方には判断があると思われるので,ファンタシアーについて次のように規定してから,もう一方について述べなければならない.

[428a1] 実際,ファンタシアーは,それにもとづいて何らかのファンタスマが我々に生じるところのものである,と我々は述べ,かつ何らか比喩にもとづいてそう述べるのではないものであるのだから,これらのうちの或る一つの能力あるいは性向であって,その能力あるいは性向にもとづいて,我々は判別し,真理をとらえ,虚偽を捉えるのである.感覚,信念,知識,知性がそうしたものである.

[428a5] さて,感覚ではないことは,次のことどもから明らかである.すなわち,感覚は可能態か現実活動態かである (例えば視覚と目視のように) 一方,これら両者のいずれも成立していないときにも何かが現れるファイネスタ,例えば夢の中のことのように.そして,感覚はつねに現在するが,ファンタシアーはそうではない.現実活動態において同一であるなら,全ての獣にファンタシアーが帰属することがあってよいだろう.だがそうは思われない.例えばアリやハチには帰属するが,幼虫には帰属しない.そして,感覚はつねに真であるが,大半のファンタシアーは虚偽となる.感覚されうるものをめぐって正確な仕方で働かせているとき,我々は「これは人間であると我々に現れている」と言うこともない.むしろ,真か偽かを明瞭に感覚してはいないときにそう言うのである.そして,ちょうど我々が先ほど述べていたことであるが,眼を閉じているものどもにも現れるのである.

[428a16] しかし実際,〔ファンタシアーは〕知識あるいは知性のような,つねに真理を捉えるもののどれでもないだろう.したがって,信念であるかどうかを見て取ることが残されている.というのも,信念も真にも偽にもなるから.しかし,信念には信じている状態が付随するが (というのも,思っている人々が,信念をもちながら信じていないことはあってはならないから),獣のうち何にも信じている状態は帰属しないが,ファンタシアーは多くの獣に帰属するから.さらに,全ての信念には信じている状態が付随するが,信じている状態には説得されていることが付随し,説得には言語が付随する.だが,獣のうち幾つかにはファンタシアーは帰属するものの,言語は帰属しない.

[428a24] したがって,ファンタシアーは感覚を伴う信念でも,感覚を通じた信念でもなく,信念と感覚の結合でもありえないことは,上記の理由からも,また,「信念は感覚がそれの感覚であるところのものの信念に他ならないだろう」という理由からしても,明らかである.私が言っているのは「白いものについての信念と感覚からの結合はファンタシアーであるだろう」ということだ.すなわち,〔ファンタシアーは〕善い事柄についての信念と白いものの感覚とからなるわけではない.したがって,現れているということは,付帯的でない仕方で,まさにひとが感覚しているものの信念をもつということであるだろう.

要約

  • [427b27] 知性認識は ファンタシアー / 判断 の二種あると思われている.
    • [428a1] ファンタシアー = それによってファンタスマが我々に生じるようなはたらき.
    • ファンタシアーは対象を判別し真理や虚偽を捉える働きの一種.
      • そうしたものの候補は: 感覚,信念,知識,知性.
  • [428a5] ファンタシアー ≠ 感覚.なぜなら:
    • 感覚能力もその発揮もないときにもファンタシアーはある (e.g. 夢).
    • 感覚はつねに現在するが,ファンタシアーはそうではない.
    • 感覚が帰属するがファンタシアーは帰属しないものがある (e.g. 幼虫).ゆえに,現実活動態においても両者は異なる.
    • 感覚はつねに真.ファンタシアーは大半が虚偽.
    • 感覚とファンタシアーとでは,それについての言語表現が異なる.
  • [428a16] ファンタシアー ≠ 知識,知性.
    • ∵ ファンタシアーはつねに真理を捉えるわけではない.
  • ファンタシアー ≠ 信念.なぜなら:
    • ファンタシアーは獣に帰属する.しかるに,信念は獣に帰属しない.
      • ∵ 信念をもつ (δοξάζειν) ⇒ 信じている (πιστεύειν) ⇒ 説得されている (πείθεσθαι) ⇒ 言語をもつ.
  • [428a24] ゆえに,ファンタシアー ≠ (i) 感覚を伴う信念,(ii) 感覚を通じた信念,(iii) 感覚と信念の結合.
    • 第一に,どれも信念を含む点から斥けうる.
    • 第二に,(iii) の見方によれば,P のファンタシアーは P についての信念と P についての感覚からなる.〔論証が以下に続く.〕

訳注

  • πίστις: 信じている状態.
  • a11 は Torstrik の conjecture に従う.テミスティオスのパラフラシス (89, 35-90, 14) がこれを支持する (Shields).
  • OCT の εἴπερ (a28) を読まない.

先行研究

  • S.: ここの νοεῖν は極めて広義のそれ.
  • S.: The 'metaphorical' sense とは (狭義の φαντάζεσθαι に対する) 広義の (ποίησις を要しない) φαίνεσθαι を指す.