『魂について』II.4 #3 栄養−身体−魂の関係

DA II.4 416a29-b31.


[416a29] このことはアポリアを有している.というのも,或る人々は似たものが似たものによって養われる−−ちょうど成長するように−−と主張し,或る人々には,我々が述べてきたように,これと正反対の仕方で,似たものは似たものによっては非受動であるので,反対のものが反対のものによって〔養われるの〕だが,栄養は変化し消化される,と思われている.全てのものにとって変化とは対立するものへの,あるいは中間のものへの変化である.さらに,栄養は養われるものによって何かを被るが,養われるものは栄養によって何かを被るわけではない.ちょうど,大工に素材によって何かを被ることはなく,むしろ大工によって素材が何かを被るように.というのも,大工は働いていない状態から現実活動態へと変化するだけだから.栄養が付加的に生じる最後のものなのか,それとも最初のものなのかは,違いを生む.もし〔栄養が〕両方であり,しかし一方は未消化のもの,他方は消化済みのものであるのなら,両方とも栄養であると語ってよいかもしれない.というのも,未消化である限りで,反対のものが反対のものによって養われるのであり,消化済みである限りで,似たものが似たものによって養われるのである.したがって,或る意味では両者とも正しく語っており,或る意味では正しくない仕方で語っていることは明らかである.

[416b9] 何ものも生に与ることなしには栄養摂取しないので,魂をもつものは,魂をもつ限りで栄養摂取するのだろうし,したがって栄養も魂をもつものに対してあるのであり,かつ付帯的でない仕方でそうなのである.栄養にとっての〈あること〉と,成長させうるものにとっての〈あること〉は異なる.というのも,一方で魂をもつものが或る量である限りでは〔栄養は〕成長させうるものであるが,他方で〈或るこれ〉であり本質存在である限りでは栄養である.というのも,〔魂をもつもの〕本質存在を維持しており,そして栄養摂取する限りでそうするからである.

[416b15] そして生成をなしうるものでもある––栄養摂取するものの生成ではなく,栄養摂取するものと同様のものの生成をである.というのも,栄養摂取するものの本質存在は既にあるのであって,何ものもそれ自身を生み出すことはなく,むしろ維持するから.したがって,魂のこうした原理は,魂をもつものを,そうしたものとして維持するような能力であり,栄養は現実活動を準備する.それゆえに,栄養を奪われると存在しえないのである.

[416b20] 三つのものがある––すなわち,栄養摂取するもの,それによって栄養摂取するもの,および養うものがある.養うものは第一の魂であり,栄養摂取するのは魂をもつ身体であり,それによって栄養摂取するものとは栄養である.あらゆるものを目的に応じて呼称することは正当であり,目的は自らに似たものを生み出すことであるから,第一の魂は自分に似たものを生み出しうるものである.それによって栄養摂取するものは二通りにあり––それは手も舵もそれによって操舵するものであるのと同様であるが––,一方は運動させかつ運動するもの,他方は運動するものである.全ての栄養が消化されうることは必然であるが,消化を行うのは熱である.それゆえ,魂をもつ全てのものは熱をもっている.さて,栄養とは何であるかが概括的に述べられた.栄養については,相応の論考において,後ほどくまなく解明されるべきである.

要約

  • [416a29] アポリア: 似たものによって養われるのか,似ていないものによって養われるのか.
    1. 一般に変化は対立するもの (ないし中間のもの) への変化である.
    2. 栄養は変化するが,栄養摂取するものは変化しない (現実活動態になる).アナロジー: 大工と素材.
    3. 未消化の栄養は「似ていない」,消化済みの栄養は「似ている」と言える.
  • [416b9] 栄養 T は魂をもつもの E の栄養である (πρὸς ἔμψυχον ἐστί).
    • ∵ E が魂をもつ ⇔ E が生きている ⇔ E が栄養摂取する.
    • E を量として捉える限りで,T は「成長させうるもの」である.E を本質存在として捉えるなら T は「栄養」(E の存在を維持するもの) である.
    • [416b15] さらに T は E と似たもの E' を生成させる.
  • [416b20] 栄養摂取するもの E, それによって栄養摂取するもの T, 養うもの P がある.
    • E は魂をもつ身体,T は栄養,P は「第一の魂」.
    • 第一の魂の目的は,自らに似たものを生み出すこと.
    • 〔厳密に言えば〕「それによって栄養摂取するもの」は (i) 熱 (運動させ運動するもの),(ii) 栄養 (運動するもの) である.

訳注

  • τρέφεσθαι: 栄養摂取する,養われる.
  • Torstrik は 416b23-25 を 416b20 と交換する提案を行っており,Shields はこれに倣う.可能ではあるが,特に必要とは思われなかった.