『魂について』II.2 #1 魂は生命活動を説明する.魂の諸能力の階層
DA II.2 413a11-b10.
[413a11] 明晰ではないがいっそう明白である事柄から,明晰であり説明規定に即していっそうよく認識される事柄が生じるのだから,今度はそのように,魂をめぐる考察を試みなければならない.すなわち,定義的な説明規定は (定義の大多数が述べているような)〈そうあること〉を明らかにすべきであるばかりではなく,むしろ原因も〔その説明規定に〕内属し,明らかになっていなければならないのだ.だが実際には,定義項の説明規定は,結論のごとくである.例えば,正方形化とは何であるか? 辺の長さが異なる長方形と等しい長方形が等辺であるということである.このような定義は,結論の説明規定である.他方,「正方形化とは中項の発見である」と語る人は,事柄の原因を語っている.
[413a20] そこで,考察の原点を把握しつつ,我々は次のように語る.すなわち,「魂をもつものは,魂をもたないものから,生きているという点で区別される」と.生きていることは多くの仕方で語られるが,それらのうち或る一つだけでも内属している場合には,それは生きていると我々は主張するのである.例えば,知性,感覚,場所に関する運動と静止,さらに栄養による運動すなわち衰微と成長である.それゆえ,あらゆる植物も生きていると思われている.というのも,それ自身のうちに,反対方向への成長と衰微を受け取る能力と原理を有していると思われるからである.というのも,栄養を取ることが可能である間,最後までつねに栄養摂取し生きている限りのものどもは,上に成長するが下には成長しないということもなく,むしろ両方向に,またあらゆる方向に同様に成長するからである.
[413a31] この能力・原理は他のものどもから離在することが可能であるが,可死のものどもの場合,他のものどもがこれから離在することは不可能である.〔このことは〕諸々の植物に関しては明らかである.というのも,それらには他のいかなる魂の能力も属さないから.生きているということはこの原理ゆえにそれらに属するが,動物は第一には感覚ゆえに〔動物である〕.というのも,運動することも場所を変えることもないが感覚はもつものどもをも,我々は動物であると述べるのであり,単に生きていると述べるだけではないからである.感覚のうち第一に全ての動物に備わっているのは触覚である.栄養摂取能力が触覚やあらゆる感覚から離在することは可能であり,それと同様に,触覚がその他の諸感覚から〔離在することも可能である〕.「栄養摂取能力」と私が言うのは,植物も与っているような魂の部分のことである.全ての動物は触れうる感覚を有しているように思われる.これらの各々が付帯することの原因は,我々は後ほど述べる.
要約
〔以下, 生き物
は能力
をもつ,
(i.e.
の離在不可能性),
とする.〕
- 魂に関しても,〔我々に〕明白な事柄から,説明規定に即してよりよく認識される事柄へと考察しなければならない.
- i.e.: 事実だけではなく,その原因も明らかにする定義が必要 (例: 正方形化の二通りの定義).
- 魂をもつ/もたないという区別は,生きているか否かの区別である〔i.e. 前者の眼目は後者にある〕.
- X が生きている iff. X は栄養により成長・衰微する ∨ X は〔自ら1〕場所移動・静止する ∨ X は感覚する ∨ X は知性認識する (∨ ...).
- ∴ 植物は全て生きている.
- X が生きている iff. X は栄養により成長・衰微する ∨ X は〔自ら1〕場所移動・静止する ∨ X は感覚する ∨ X は知性認識する (∨ ...).
- 栄養摂取能力
その他の能力 (可死のものの場合).
- 植物には栄養摂取能力しかない.
- 他方,動物を特徴づけるのは感覚能力.
- 触覚
その他の感覚能力.
- 触覚
- 他方,動物を特徴づけるのは感覚能力.
訳注
- σαφής: 明晰な,φανερός: 明白な,ἔμψυχος: 魂をもつ,τὸ θρεπτικόν: 栄養摂取能力.
先行研究
Polansky (2007) の代わりに Shields (2012) を見ることにする.正直 P. は最初に全部読むには長すぎる.
- S.:「生は多様に語られる」は (i) 一義性を否定する限りで反プラトン的,(ii) ただし家族的類似モデルで理解すべきということではない (中核依存的な同名異義性2).
- S.: 「可死のものどもの場合」という制約は必要.このことは魂の能力の階層が仮設的であり絶対的でないことを意味する (「栄養摂取的な魂なくして理知的・感覚的魂がある」ということに矛盾はない).
-
場所移動する機械を生きているとは言わないだろうから,ὁρμὴ ἔμφυτος が必要と思われる.Shields は Phys. 255b20-256a2 を指示する.↩
-
「中核依存的な同名異義性」については cf. Order in Multiplicity, ch.1. また生の多義性については同書 ch.7. ↩