『魂について』I.1 #1 魂に関する探究の重要性と難しさ

DA I.1, 402a1-22.


[402a1] 知識が立派で価値のあることに属すると我々は想定しており,或る知識は他の知識よりも,正確さに関して,あるいはいっそう優れており,かついっそう驚嘆に値する事柄の知識であるという点で,なおさらそうであると想定するのだが,これら両方の点のゆえに,我々が魂に関する探求を第一の事柄のひとつとして立てるのは,理にかなっているだろう.

[402a4] 真理全体に対しても,魂についての認識は大いに寄与するだろうし,とりわけ自然に対しても寄与するだろうと思われる.というのも,魂とはすなわち動物どもの原理であるから.

[402a7] 魂の自然本性,すなわち本質ウーシアー,次いで魂に付帯する限りの事柄,を考察し認識することを我々は目指している.魂に付帯する限りの事柄のうち,或るものは魂に固有の属性であり,或るものは魂のゆえに動物にも帰属するものと思われる.

[402a10] しかし,魂について何らかの確信を得るということは,あらゆる面で,あらゆる仕方において,最も困難な事柄に属する.すなわち,探究される事柄は−−私が言うのは,本質すなわち〈何であるか〉をめぐる事柄のことだ−−他の多くの事柄とも共通なので,ちょうど付帯的に固有である事柄にも論証があるように,本質を認識しようと我々が望むところの事柄全てについて,或る単一の研究方法があると思われるかもしれず,したがって,この研究方法を探究すべきであるのかもしれない.もし〈何であるか〉をめぐる或る単一であり共通する研究方法がありはしないのなら,論究はさらに難しくなる.というのも,各々の事柄について,方法が何であるかを把握しなければならないだろうから.何らかの論証なのか,分割なのか,何か他の研究方法なのかということが明白であるとすれば,何から探究すべきかについて,さらに多くのアポリアーと当惑がある.というのも,他の探究には他の原理があるからである.ちょうど数や平面の探究のように.

要約

  • 以下の二点より,魂に関する探究は最重要な事柄である.
    1. 総じて知識は立派で価値のあることである.
    2. 知識には正確さ,ないしは主題の重要性という点で優劣がある.
    3. 〔しかるに,魂に関する探究は正確であり,かつ魂は重要な主題である.〕
  • また,魂は動物の原理なので,魂に関する探究は,あらゆる事柄の認識,特に自然の認識にも寄与する.
  • 魂に関する探究の目的は,魂の本質と付帯性の考察・認識である.
  • 魂に関する探究は困難である.
    • 一般に,あらゆる主題について研究方法が同じであるとすれば,その研究方法を探さなければならない.
    • 主題ごとに研究方法が異なるとすれば,主題に合う研究方法をその都度探さなければならない.
      • 研究方法の指定に加え,探究の原理として何を措定すべきかも問題である.

先行研究

  • アリストテレスは魂論を ἐπιστήμη と呼ぶことを避けているように見える (Polansky).