『生成消滅論』I.8 #4 不可分なものの受動状態

GC I.8 325b33-326a24.


[325b33] また,不可分な諸表面については,以前の議論において我々は述べておいた.実際,不可分な諸立体について,帰結する事柄をさらに考察することは,今は放っておかねばならない.他方,多少脱線したことを述べると,不可分なものどもの各々は非受動であり (というのも,空虚を通じてでなければ,作用を受けることはありえないから),かつ何かの受動状態を作ることもできない.というのも,冷たくあることも,固くあることもできないから.しかし少なくとも,球形にのみ熱を割り当てるということは.奇妙である.というのも,諸形状のうち他の何かには反対の冷たいものであることが相応しいことも必然であるから.これら−−と私が言うのは熱さや冷たさのことだが−−が帰属し,重さや軽さや硬さや柔らかさは属さないだろう場合も,奇妙である.しかしデモクリトスは,不可分なものどもの各々が,超過に応じてより軽く,したがって明らかにより熱い,と主張する.そのようでありながら互いから作用を受けないことは不可能である.例えばかすかに冷たいものが,それを大いに上回る熱いものによって作用を受けるように.しかし実際,硬いなら,柔らかくもある.柔らかいものは何かを被ることによって語られる.というのも,屈服するものは柔らかいから.

[326a14] しかし実際,何ものも属さず,形のみが属するとしても,奇妙である.もし属するなら,一つのみが属する.例えば或るものは柔らかく,或るものは熱い.というのも,これらのうち或る一つの自然本性があるわけでもないだろうから.だが,一つのものに多くのもの属するという場合も,不可能である.というのも,不可分である以上,諸受動状態は同一の性向のうちにあるから.したがって,もし作用を受けるなら,冷やされるとき,他の何が作用する,あるいは作用を受けるだろうか? 他の受動状態についても同じ方式である.というのも,立体が不可分であると語る人々も,表面が不可分であると語る人々も,同じ方式になるから.というのも,不可分なものどものうちに空虚はないので,疎になることも密になることもできないから.

要約

  • 不可分なものは非受動であり,かつ受動状態を作らない.
    • 不可分なものが冷たい,固い,ということはない.
    • 「球形の不可分なものが熱い」とすれば,他のものが冷たい,と言わねばならなくなる.
    • 熱さや冷たさが帰属するのなら,重さや軽さ,硬さや柔らかさも帰属するだろう.
      • デモクリトスは両者の帰属を認める.すると,これらは非受動ではない.
  • 不可分なものについては,どんな受動状態も想定できない.
    1. 形のみが属するとは言えない.
    2. 一つの受動状態が属するとも言えない.
    3. 多くの受動状態が属するとも言えない.

訳注

  • Budé 版に 'παρεκβᾶσιν' とあるのは παρέκβασιν の誤植か.
  • Rashed は "εἰ σκληρόν καὶ μαλακόν, τὸ δὲ μαλακὸν ..." と読み,後件中の δὲ はアリストテレスにも他の古典作家にも珍しくないと言うが (p.143),読みにくいには違いなく (Rashed の訳は 's'il y a dur et mou, « mou » est ...'),またそう読む利点もよく分からない (写本的にも弱い).他の編纂者たちに従い "εἰ σκληρόν, καὶ μαλακόν. τὸ δὲ μαλακὸν ..." と切って読む.
  • πάθος / πάθημα はともに「受動状態」と訳す.

先行研究

  • 「以前の議論」: De Caelo III.1, 7, IV.2 (Williams).