『メタフュシカ』Θ2 ロゴスをもつデュナミスの特質

Met. Θ2.

[1046a36] そうした原理は,一方で魂をもたないものどものうちに内属し,他方で魂をもつものども,魂,ないしは魂のうちロゴスをもつもののうちに内属するのだから,デュナミスのうち或るものはロゴスをもたず,或るものはロゴスを伴う.それゆえに,全ての技術や製作的諸学知はデュナミスである.というのも,変化しうる諸原理が他のもののうちに,他のものである限りであるから.また一方でロゴスを伴う反対者のデュナミスは全て同一であり,他方でロゴスのないデュナミスは一つに一つある.例えば熱いものは熱することだけのデュナミスであるが,医術は病と健康のデュナミスである.学知がロゴスであるということが〔その〕原因であり,同一のロゴスが事物と欠如とを明らかにするのだが,しかし同様の仕方で明らかにするわけではなく,或る仕方では両者にあり,或る仕方では帰属するものに一層ある.したがって,そうした諸学知が反対者の諸学知であるが,反対者の一方は自体的に,他方は非自体的に属する,ということが必然である.というのも,ロゴスには一方が自体的に属し,他方が或る方式で付帯的に属するから.というのも,否定言明や取り去られたものによって反対者を明らかにするから.というのも,反対者は第一の欠如であり,第一の欠如は一方の取り去られたものであるから.

[1046b15] 反対のものは同じもののうちに生じないが,学知はロゴスをもつという点におけるデュナミスであり,また魂は運動の原理をもつので,健康なものは健康のみをつくり,熱しうるものは熱のみを,冷たいものは冷たさのみをつくるが,学知をもつ人は両方をつくる.というのも,両者のロゴスである一方同様にそうであるわけではなく,また魂のうちに運動の原理をもつから.したがって,〔学知をもつ人は〕同一の原理から,同一のものに対して結合させつつ,両者を運動させるだろう.それゆえ,ロゴスに即してデュナトンなものはロゴスなしにデュナトンなものによって反対者をつくる.というのも,一つの原理,すなわち一つのロゴスの点で,包括されているからである.

[1046b24] 良く〔作用したり作用を被ること〕のデュナミスに,単に作用することや作用を被ることのデュナミスが付随する,ということも明らかであるが,後者が前者につねに付随するわけではない.というのも,良く作用するものが作用してもいることは必然だが,単に作用するものが良く作用することは必然ではないから.

要約

  • デュナミスは以下のものに内属する: (I) 魂を持たないもの,(II-1) 魂をもつもの,(II-2) 魂,(II-3) 魂のうちロゴスをもつもの.
    • したがって,デュナミスの或るものはロゴスをもち (II-3 の場合),或るものはロゴスをもたない (それ以外).
    • 技術や製作的学知はデュナミスである.
      • 他のものを変化させる原理だから.
    • ロゴスであるデュナミスは反対者のデュナミスであり,ロゴスのないデュナミスは一つのもののデュナミスである.
      • e.g. 医術−〈病/健康〉↔ 熱いもの−〈熱すること〉.
      • なぜなら,同一のロゴスが事物と欠如の両方を明らかにするから.
        • ただし,事物は自体的に,欠如は非自体的に明らかにされる.
  • 学知をもつ人は反対者の両方をつくる.
  • 良く作用することのデュナミスであれば,作用することのデュナミスである (逆は成り立たない).

訳注

  • デュナミスの訳語は pending. ロゴスは単純に訳しあぐねている (cf. Makin, sec.2).
  • b4 ἢ JΓ: om. EAb (Ross). 読まない.
  • ἀποφορά: 取り去られたもの.

先行研究

すべて Makin.

  • 「ロゴス」はここで4つの文脈で用いられる.すなわち魂の区分,および能力の区分 (rational),ないしは knowledge の特徴づけ,および事物と欠如の双方を明らかにするもの (account).

  • なぜ「技術や製作的学知はデュナミスである」とわざわざ主張しているのか? 理由1: 二方向の能力 (two-way capacities) の範例として.理由2 (より重要):「技能を有する限りで二方向の結果のいずれも引き起こしうる」と言うため.

  • φ する能力が一方向の能力である iff. その能力の発揮が,標準的状況のもとで (少なくとも就中) φ することの実例である.
    • 「少なくとも就中」: 一次的影響として (太陽が土を乾かすのは,一次的に,土を熱するから).「標準的状況のもとで」: 状況によって発揮が干渉・阻害されない場合に.
    • そうでない場合は二方向の能力.その際は contra-φ-ing について語りうる (e.g. 医術-危害を加える).
  • b7ff.: (A) rational capacity は二方向,(B) non-rational なら一方向.これは Θ9 の諸事例と一致する.さらに (C) 二方向の能力は非中立的に (not indifferently) 対立する結果に関係する.

    • φ し ψ する能力が真正な二方向の能力であるには,同一の対象について φ しえ ψ しうる必要がある.磁石が或る磁石を引きつけ或る磁石を退けるような場合はこれにあたらない*1.Rational capacity がこの条件を満たすこと (A) の論拠は b4ff. に散在する.
    • (B) はより物議を醸す主張であり,かつアリストテレスはほとんど論証していない.ありうる反例: 植物が O2 を吸収・放出する能力,受精卵が性分化する能力.
      • アリストテレスの他の見解からの説明: 彼によれば,A が B を non-F から F にするとき,A の B への作用とは,A が形相 F を A から B に伝達することである.二方向の能力があるなら,A は同時に現実的に F であり non-F であることになる.ただし rational capacity の場合同一の形相が A に φ-ing と contra-φ-ing をもたらす.
      • 上記の説明の独立の補助論拠: 実際われわれは A が B に変化をもたらす際に因果的効力のある A の性質 F があると考える.これには二通りありうる: (a) A がそれ自体 F である (性質 F を顕示する),(b) A が F の表象を導入する (性質 F をエンコードする).Non-rational agent は (a) の方式でしか F を導入できない.
      • Θ2 に即した議論:「反対のものは同じもののうちに生じない」.Rational capacity には「選択」という要因があり,この要因が能力を作動させ (activate) 方向づける (direct).他方 non-rational capacity は自己作動する (発揮のための要因を他に要しない).方向づける要因は状況 (circumstance) ないし作用者それ自身 (the agent itself) であるが,いずれも不合理.以上から,non-rational な二方向の能力がないことが言える.
      • (C) は経験的論点であるよりは概念的な論点であると捉えるべき.
  • b15ff. は A, B を前提してより繊細なテーゼを立てている:

    • D: An agent qua rational は (標準的な状況下で) 反対の結果をもたらしうる.
    • E: An agent qua non-rational は (標準的な状況下で) ただ一つの (固有の) 結果をもたらしうる.
    • F: An agent qua rational は agents qua non-rational を用いて反対の結果をもたらす.
      • Ross, Barnes に反して与格を instrumental に取る.

*1:ひっくり返せばくっつくのでは,とも思うが,多分ごついキッチンマグネットのようなものを想定しているのだろう.