『カテゴリー論』8章 #1 性質,性向/状態

Cat. 8. 8b25-9a13. テクストはビュデ版.


[8b25] 「性質」と私が言うのは,それに応じて或る人がどのようであるかが語られるもののことである.性質は複数の仕方で語られるものどものひとつである.

[8b27] さて,性向と状態は性質の一種であると語られるものとしよう.性向は,より安定しより長時間続くという点で,状態と異なる.諸々の学知や諸々の徳がそうしたものである.というのも,或る人が学知を或る程度把握したなら,病や他のそうした何ごとかによって大きな変化が生じない限り,学知は長時間持続し,かつ動かしがたいものどものひとつであるから.徳も同様である.例えば正義や慎慮やそうしたものどもの各々は,動きやすいものだとも,変化しやすいものだとも思われていないから.

[8b36] 状態であると語られるのは,動かしやすく,すぐに変化するものどもである.例えば,熱さや冷たさ,病と健康,他のそうした限りのものどもである.というのも,人はこれらに即して何らかの状態にある一方,熱い人から冷たい人になり,健康であることから病に罹っていることになることで,すぐに変化するから.他のことどもについても同様である––こうした諸状態のどれかも,偶々,多くの時間を経てすでに自然本性となり,不治ないしは非常に動かしがたくなっているのでなければ.そうした状態はおそらくすでに何らかの性向と呼ばれうるだろう.

[9a4] 人々が性向であると語ろうとするのは,より長時間持続し,より動かしがたいものどもだ,ということは明らかである.というのも,諸々の学知に完全に習熟しているわけではなく,動かされやすくなっている人々が,性向を有していると人々は言わないから.しかし少なくとも,学知に即して,より劣って,ないしはより優れて,何らかの状態にあるのである.したがって,性向は状態と,一方が動かされやすく,他方がより長時間持続しより動かしがたいという点で,異なる.諸々の性向は状態でもあるが,諸々の性向は必ずしも状態ではない.というのも,諸々の性向をもつ人々は,それらに即して何らかの状態にもあるが,或る状態にある人があらゆる場合に性向をももつわけではないから.

要約

  • 性質 = それに応じて或る人がどのようであるかが語られるもの.
  • 性質の種別: 性向/状態.
    • 性向: より安定した・長時間持続する・動かしがたいもの (e.g. 学知,徳).
    • 状態: 動かしやすい・すぐに変化するもの (e.g. 熱さ,冷たさ,病,健康).
      • 状態が性向に変わる場合はある (i.e. 時間の経過に伴い偶然的に自然本性となる).
  • 性向 ⊂ 状態.

メモ

  • 人の性質の話しかしていない.
  • 性向・状態の議論は「語られるとしよう」「おそらく……だろう」「思われる」「人々に語られる」など,仮説的・エンドクサ的.
  • 性向と状態は排反であるかのような議論が続いただけに,最後の「性向 ⊂ 状態」をどう解釈するかは問題.