『メタフュシカ』Γ3 #2 無矛盾律は最も確実な原理である

Met. Γ3 1005b11-34.

[1005b11] 全ての原理のうちで最も確実な原理とは,それをめぐって欺かれるということが不可能な原理のことである.というのも,そうした〔それをめぐって欺かれることの不可能な〕原理が最もよく認識され (というのも,全ての人々は知らないことどもをめぐって欺かれるのだから) かつ非仮定的であることは必然であるから (というのも,〈あるもの〉どものうち何であれ何かを理解している人が必然であるそうした原理は,仮定ではないから).何であれ何かを認識する人にとって認識することが必然である事柄は,それを有しながら赴くことも必然である.そして,全ての原理のうちそうした原理が最も確実であることは,明らかである.何がその原理であるかを,このあと,我々は語ろう.すなわち,「同一のものが同一のものに帰属し,かつ帰属しない,ということは不可能である」(付加的に我々が規定しうる限りの他のことどもは,論理的諸困難に応じて付加的に規定されるとしよう).全ての原理のうちで,この原理が最も確実である.というのも,既に述べられた規定を有するからである.というのも,誰であれ,「同一の事柄があり,かつ,ありはしない」と想定することは不可能だからである––ちょうどヘラクレイトスが語ったと或る人々が思っているように (というのも,或る人が述べている事柄を,〔同じ人が〕想定してもいるということは必然ではないから).反対のことどもが同一の事柄に帰属することがあってはならず (我々はこの前提に慣習的なものどもを付加的に規定したものとしよう),否定言明の判断が判断の反対であるのだとすれば,同じ人が同じことを同時に「あり,かつありはしない」と想定することが不可能なのは明らかである.というのも,〔さもなければ,〕欺かれている人が,それについて同時に反対の諸判断をもちうるから.それゆえ,論証する全ての人々は,最後の判断をこの判断へと還元するのである.というのも,本性上原理であり,他の諸公理の原理であるから.

要約

  • 最も確実な原理 = 人々がそれをめぐって欺かれることのありえない (必ずそうだとわかる) 原理.
    • ∵ 人々が欺かれ得ない原理は (i) 最もよく認識され (ii) 非仮定的であり (iii) 探究の際にも必ず携えられることになる.––こうした条件を満たす原理は,最も確実といえる.
  • 矛盾律は最も確実な原理である.
    • 「P があり,かつ P がありはしない」と想定することは不可能である.
      • (ヘラクレイトスはそう語ったとされるが,本当にそう想定したわけではないだろう.)
      • ∵ (大前提) X と X の反対が同一のものに属することは不可能であり,(小前提)「P である」という判断と「P でない」という判断は反対であるから.
    • それゆえ,論証を行う人々は,最後の判断をこの無矛盾律に還元している.

先行研究

  • Kirwan は 1005b11f. について,(a2) "if error with regard to x is impossible, x is the firmest principle of all" という主張であり,その逆 (a1) "if x is the firmest ..." ではない,と述べる.
    • 後段の論証からして第一義的には (a2) であることは間違いない.だが或いは同一性言明であるかもしれない.上記 (i)-(iii) の性質を検討する必要があろう.
  • Kirwan は例のごとく議論を形式的に再構成し,怪しい前提を取り出している.特に後半部の議論について: "∃x∃F (belief that Fx is contrary to belief that not-Fx". たしかにこれは変な感じがする.