『ポリテイア』358a7-e1 グラウコンによる反対弁論の提案

Resp. 358a7-e1.

[358a7] 「知っているよ,彼らがそのように考えていて,先ほどからトラシュマコスは,そうしたものだとしているために非難し,不正を称賛しているのだ,ということは」と私は言った.「しかし私は,どうもある種物分かりのよくない人間のようだ」

[358b1] 「それでは」と彼は言った.「私の話も聞いてください,あなたにもまた同じことを良いと思われるのであれば.それというのも私には,トラシュマコスが,あたかも蛇が音楽に魅入られるように,必要以上に早くあなたに魅入られてしまったように思えるのです.私にとっては,正義と不正の各々についての論証はまだ心にかなうものになっていません.私が聞くことを望んでいるのは,各々が何であるか,また魂のうちにあるとき,いかなる力をそれ自体として有するか,であって,諸々の報酬や生じることどもは,それらから追い出しておきたいからです.

[358b8] ですから,あなたにも良いと思われるのだとすれば,私はこうします.トラシュマコスの議論をもう一度復活させて,次のことを述べましょう.第一に正義がどのようなものであると言われており,何から生じたものだと言われているか.第二に,正しいことを追求する全ての人々は,嫌々ながら,善いこととしてではなく必要なこととして,追求していること.第三に,人々がそうしているのは尤もであること.というのは,人々が言うところでは,不正な人の生は,正しい人の生より,ずっとましなのですから*1.私自身には,ソクラテス,このように思われるわけではありません.しかしながら,トラシュマコスや無数の他の人々から耳がたこになるほど聞かされて,当惑しているのです.他方で,正義を弁護する「不正より良い」という言論は,私が望むようには,全然だれからも聞かされてこなかったのです.それ自体に即して称えられるのを聞きたいと私は望んでいます.とりわけ,あなたから伺うことができるだろうと,私は思っています.

[358d5] それゆえ私は,奮闘して,不正な生を称えながら語りましょう.また語ることで,どんな仕方で,今度はあなたが不正を非難し,正義を称えるのを,私が聴きたいと望んでいるのかを,あなたに示しましょう.さあ,あなたは私の述べていることを望んでおられるでしょうか?」

[358d9] 「何にもまして望んでいるとも」と私は言った.「だって,何について,これ以上,心ある人が何度も語ったり聞いたりすることを喜ぶことがありうるだろうか?」

要約

「正義の追求は専らその結果のためになされる」という通念の存在をソクラテスは認める.グラウコンは,トラシュマコスとの対論より徹底した検討が必要であると主張する.すなわち,以下の二点を論じなければならない:

  • 正義/不正の各々が「何であるか」,
  • 魂のうちでいかなる力をもつか.

そこでグラウコンは,悪魔の代弁者となり,自ら信じているわけではない以下の三点をあえて示そうという.

  1. 正義とはどのようなものか,またその由来に関する通念の提示.
  2. 人々は正義を専ら必要から追求していること.
  3. それはもっともであること.

ソクラテスはこれに賛成する.

*1:Adam によれば 'ἄρα disclaims responsibility for the theory'. 詳細不明.