『メタフュシカ』Γ2 #5 τὸ ὂν ᾗ ὂν の学知の問答法的定立

Met. Γ2 1004b27-a18.

[1004b27] さらに,反対のものどもの〔双欄表の〕他方の欄は欠如であり,全てのものは〈あるもの〉と〈ありはしないもの〉に,また〈一〉と〈多〉に還元される (例えば静止は〈一〉に属し,運動は〈多〉に属する).〈あるもの〉どもと本質存在が反対のものどもから合成されるということには,ほとんど皆が合意している––少なくとも皆が,原理は反対のものどもであると述べている.というのも,〔原理を〕或る人々は〈奇〉と〈偶〉,或る人々は〈熱〉と〈冷〉,或る人々は〈限り〉と〈無限〉,或る人々は〈友愛〉と〈悪〉である〔と述べている〕から.他の全てのものどもも〈一〉と〈多〉に還元されるように思われるが (それというのも,我々は還元を受け入れたものとしよう),〔これらの〕諸原理や他の人々が提出した諸原理は全て,これらの類に当てはまるものとしてあるのである.したがって,以上のことから,〈ある〉かぎりの〈あるもの〉を観照することが一つの学知に属することは明らかである.というのも,全てのものどもは反対のものどもであるか,反対のものからなるものであり,〈一〉と〈多〉は反対のものどもの諸原理であるから.これらは,一つのものに即して語られようと語られまいと,単一の学知に属する.ちょうどおそらく真理もそうであるように.だが同様にして,〈一〉が多様に語られもするのなら,第一のものに対して他のものどもは語られるだろうし,反対のものどもも同様であろう.そしてそれゆえに (〈あるもの〉や〈一〉が普遍的ではなく,全てのことについて同一である,または離在するとしても––おそらくそうではなく,むしろ或るものどもは一つのものに対して,或るものは引き続くという仕方で〔あるのだが〕––),〔話を戻すと〕そしてそれゆえに,反対や完全,〈一〉,〈あるもの〉,〈同〉,〈他〉が何であるかを観照することは,基礎措定からではなければ,幾何学者には属さないのである.〈ある〉かぎりの〈あるもの〉を観照することや〈ある〉限りのそれに帰属するものどもを観照することが一つの学知に属することは明らかであり,また,諸々の本質存在のみならず帰属するものどもも同一の観照的学知に属すること,またより先なるものとより後なるもの,類と種,全体と部分,他のそうしたものに関して以上語られたことどもも同一の観照的学知に属することは明らかである.

要約

  • 〈あるもの〉どもと本質存在は〈一〉(〈あるもの〉) と〈多〉(〈ありはしないもの〉) に還元される.
    • 〈あるもの〉どもと本質存在は反対者から合成される (ほぼコンセンサス).
      • 原理は反対者である (コンセンサス).
    • かつ,反対者は〈一〉と〈多〉に還元される.
  • したがって,それらは単一の学知に属する.

訳注

  • a33-4 の既訳は '... it is obvious that all the others also reduce ...' (Kirwan), 'Tous les autres contraires semblent aussi se réduire ...' (CN, 以上強調引用者) となっており,上の訳もこれに従っているが,本当のところこう訳せるのかよく分からない.

先行研究

  • CN: 反対者間の欠如関係も「全てのものどもは反対のものどもであるか,反対のものからなるものである」(1005a3-4) もアリストテレスの揺るがぬ教説ではなく (cf. Tricot, Kirwan),むしろエンドクサである.
    • したがってこの箇所は問答法的推論として読める: 自然学者の上記エンドクサに基づき,非対称的な (一方が他方の欠如である) 対をなす諸原理を立て,これらを〈ある〉−〈あらぬ〉の対に還元する.
  • CN: Tricot は 'ἐφεξῆς' に神学的ヒエラルヒーを見る.τὸ ὂν ᾗ ὂν に神学的含意を見て取る解釈者は他にもいるが,'ἐφεξῆς' を用いるのは Tricot と Colle だけである.
    • これには同意しない.第一に ἐφεξῆς に τὸ ὂν ᾗ ὂν の学知の基礎があるなら,並置される (〈あるもの〉の統一性を担うはずの) πρὸς ἓν の居場所がなくなる.
    • 第二に,この καὶ διὰ τοῦτο で挟まれる挿入節は,たんにプラトン的な〈一〉との混同を避けることを眼目としている.πρὸς ἓν と τῷ ἐφεξῆς はプラトン的範型を避ける二様式である.
    • Aubenque (1985) は,πρὸς ἓν が多から一に向かうのに対し,τῷ ἐφεξῆς は同じ関係を逆に辿ることを意味する,と論じる*1.こう解釈すれば,イデア論との対抗も理解できる: (プラトン的語彙を用いるなら) イデアがそれに与るものどもの系列のうちに置かれない限り,個物がそれに与ることはないのだ.

*1:ということだと思うが,明確には理解できていない.