『メタフュシカ』B4 1000b9-1001a2 可滅なものと不滅なものの原理は同一か (cont.)
Met. B4 1000b9-1001a2 (Aporia 10).
[1000b9] だが,議論の出発点から,少なくとも次のことは明らかである.すなわち,この議論から,憎悪はなんら消滅の原因ではなく,〔万物が〕あることの原因でもないということが帰結する.同様にして友愛も〔万物が〕あることの原因ではない.というのも友愛は,一つのものへとまとめることで,他のものどもを滅ぼすからである.また同時に〔エンペドクレスは〕,変化そのものの原因を全く述べておらず,むしろ本性上そのようにあると述べているのである.「だが大いなる憎悪が四肢において育まれ / 時が満ちると名誉へと飛び立つ / それらが固き誓いから動かしている交代する時が」−−〔すなわち万物は〕必然的に変化するものなのである.しかし必然の何らの原因も明らかではない.それでもやはり,これだけのことを,エンペドクレスは唯一整合的に語っている.というのも,存在するものの或るものを可滅とし或るものを不滅とするのではなく,諸元素を除けば全てが可滅的であるからである.
[1000b20] いま語られたアポリアーは,同じものからなる以上,何ゆえ或るものは〔可滅で〕あり,或るものはそうでないのか,というものである.そこで,同一の原理ではないであろうということについては,これだけの事柄が語られたものとしよう.一方,異なる原理があるのだとすれば,一つのアポリアーは,それら諸原理は不滅なのか,それとも可滅なのか,ということである.というのも,もし可滅なら,それら諸原理も何らかのものどもからあるということは必然であり (というのも,万物は,そこからあるところのものへと消滅するから),したがって,諸原理には別の先立つ諸原理があることになるが,これは不可能である−−静止するとしても,無限に進むとしても.
[1000b28] さらに,もし諸原理が滅ぼされるだろうとすれば,いかにして可滅のものがあるだろうか? 他方,〔諸原理が〕不滅であるなら,何ゆえそれら不滅のものからありながら可滅であるだろうか,またもう一方の〔可滅の〕ものから〔ありながら〕不滅であるだろうか? それというのも,このことは理にかなっておらず,むしろ不可能であるか,多くの議論を要する.
[1000b32] さらに,何者も別々の諸原理を試みてはこず,むしろ万物の同一の原理を語っているのだ.しかし,最初にアポリアーとされたことを,人々はあたかも何か些細なことであるかのように捉えて,飲み込んでしまっているのだ.
要約
- エンペドクレスの検討 (続き).
- したがって,憎悪は消滅や万物があることの原因ではない.
- 問題4: 他方,友愛も万物があることの原因ではない (友愛は諸事物をまとめることで滅ぼすから).
- 問題5: また憎悪が変化をもたらす原因も語られていない.
- とはいえエンペドクレスは,元素以外を全て可滅とすることで,議論の整合性は確保している.
- アンチテーゼ: 可滅のものと不滅のものは異なる原理を有する.
- 選択肢: それらの原理は,可滅か,不滅か.
- 問題6: 原理は,可滅なら,何かから生じることになる.すると無限背進し,不合理.
- 問題7: 原理が可滅なら,原理が滅びると可滅のものも滅びる.
- 問題8: 原理が不滅なら,可滅のものの原理とはならない.逆もしかり.
- そもそも,別々の原理がある可能性を,だれも考慮していない.問題自体が見逃されている.
- 選択肢: それらの原理は,可滅か,不滅か.
先行研究
- M.: 問題7には,可滅のものは必ず滅びるという前提がある (cf. De Caelo I.10-12).
- M.: 可滅のものの不滅の原理の例としては Tim. の受容体がある.