『メタフュシカ』B4 1000a5-b9 可滅なものと不滅なものの原理は同一か

Metaph. B4 1000a5-b9 (Aporia 10, 前半部).

[1000a5] 何ものにも劣らぬアポリアーが,現在の人々にも,以前の人々にも残されている.すなわち,可滅のものと不滅のものには同一の原理があるのか,それとも異なる原理があるのか,ということである.というのも,同一の原理があるのなら,いかにして,一方で可滅のものがあり,他方で不滅のものがあるのか? またいかなる原因のゆえにあるのか?

[1000a9] さて,ヘーシオドスの一派の人々や,神について説く限りの全ての者どもは,彼ら自身にとって尤もらしい事柄についてのみ考えを巡らせ,我々については考えを及ぼさなかったのである.(というのも,原理を神々とし,神々から生じたものとしたので,霊酒ネクタル神々の食物アンブロシアーを味わうことをしなかったものどもが可死のものになったと彼らは述べており,これらの名辞によって,明らかに,彼ら自身にはよく知られていることを意味していたのである.しかし,これら諸原因の適用そのものについては,我々の理解を超えたところで彼らは語っていた.というのも,〔神々が〕快楽のためにそれらに手を付けたのなら,霊酒や神々の食物は〔神々が〕あることの原因では決してないだろうし,〔神々が〕あることの〔原因〕であったとすれば,どうして永遠なる者どもが食物を必要とするのであろうか.)

[1000a18] しかし,神話的に機知を働かせる人々について,真剣に考察するのは相応しいことではない.論証によって論じている人々から,以下のことを尋ねつつ,学ばなければならない−−一体なぜ,同じものからなるにも拘らず,存在するものどものうち,或るものどもは本性上永遠であり,或るものどもは消滅するのか.だが,彼ら〔論証によって論じている人々〕が原因を語っているわけでも,このようであることが理に適っているわけでもないので,これら〔永遠のものと可滅のもの〕に同一の原因や原理があるわけではないだろう,ということは明らかである.

[1000a24] それというのも,最も自分自身に合致した〔= 首尾一貫した〕仕方で論じていると思われるであろう人,すなわちエンペドクレスも,同じこのことを被っていたからである.というのも,或る原理,すなわち憎しみを,彼は消滅の原因として立てた一方,それでもやはり,これも一つのもの以外を産み出すのだと考えたようだからである.というのも,神を除いた他の全てのものどもはこの憎悪からあるから.ともあれ彼はこう語っている−−「それらから,あった限りの,またある限りの,今後あるだろう限りの全てのものが,/ 木々や男たちや女たちが芽生えた,また野獣や鳥たちや海で育った / 魚,また永生の神々も」.

[1000a32] これら〔の字句〕を離れても,〔論点は〕明らかである.というのも,エンペドクレスが言うには,諸事物のうちに〔憎しみが〕あらぬとすれば,万物は一つであっただろうから.というのも,それらが一緒になるとき,「憎しみは一番外側に立っていた」から.それゆえに,このことから,最も幸福なる神は,他のものどもより思慮が浅いということが帰結する.というのも,万物を知ってはいないからである.というのも,〔そうした神は〕憎しみを持たないが,認識とは似たものの似たものによる認識だから.エンペドクレスが言うには,「我々は土によって土を見,水によって水を,| 空気によっては天の空気を,一方火によっては滅ぼす火を,情愛を情愛によって,憎しみを惨き憎しみによって見るのだ」.

要約

E: エンドクサ.

  • 第10アポリアー: 可滅のものと不滅のものの原理は同一か.
  • (T) 原理は同一である.
    • (Q1) すると,可滅のものと不滅のものがあるのは,いかにしてか,またいかなる原因によるのか.
      • (E1) θεολόγοι (e.g. ヘシオドス): 原理は神々とその産物であり,霊酒・神々の食物の摂取の有無で可滅か不滅かが決まる.
        • (Q2) 神々が霊酒・神々の食物を (偶々) 快楽のために味わったなら,それが神々の成立原因ではありえない.
        • (Q3) また,不滅の神々が生きるために飲食を必要とするとは考えられない.
        • そもそも θεολόγοι の話は議論の材料として不適格.むしろ論証を行っている人々から学ぶべき.
          • (だが〔結論を先に述べると〕,後者の人々も原因を語っていない.)
      • (E2) エンペドクレス: 憎しみが神以外の全てを生み出した.(憎しみなしには,全ては一つだっただろう.)
        • (Q4) すると,幸福な神は,憎しみを同類原理によって認識しない点で,他のものより思慮が浅いことになる.

文献注

  • Madigan: "Aporia 10 is remarkable for the endoxic material that it might have included, but does not." e.g. スペウシッポス,原子論者,プラトン (就中『ティマイオス』).
    • Wildberg: 加えて,これまでの 'relentlessly terse and analytical' な流儀とは全然異なった compositional feature を有する.こうした特徴は,このアポリアーを単なる 'brainstorm' approach の成果と見なす限り,理解できない.
    • より広い文脈に位置づける必要がある: A巻の先行学説批判の要点は,それらが変化しない諸原理 (一種の質料や形相) を特定しているにせよ,それらは変化を説明しない,ということであった.第10アポリアーで示唆されるごとく,可滅のものと不滅のものの原理が異なると判明したなら,「宇宙的な変化の原理は何か?」という A3 で前景化された問いが提示されることになる.
    • ここからヘシオドスやエンペドクレスの登場は説明できる.デモクリトスプラトンに言及されないのは,彼らが変化の原理の問いにそれほど寄与しなかったとみなされたからだと思われる.
      • もっとも『ティマイオス』の世界霊魂の扱いは難しい.ただ Λ6, 1072a2f. を見ると,無秩序な運動の後に魂が導入された点で第一原理の候補として不適切と考えたのかもしれない.
  • Ross & Madigan: 1000a29ff. は Simpl. がより長い引用を与えている (DK31B21).「それらから……」で指示されているのは原文では四元素のみ.
  • Madigan: 神が他のものどもより少ししか知らないことが不合理とされているが,そもそもアリストテレスの第一動者も自分しか知らない.