『メタフュシカ』B4 999b24-1000a4 (Aporia 9) 原理は数的に一つか

Metaph. B4 999b24-1000a4 (第9アポリア). Symp. Arist. の担当者は Christian Wildberg (未読).

[999b24] さらに,原理に関しては,次のことも,ひとはアポリアーとするかもしれない.すなわち,〔原理が〕類において一つであるのなら,何ものも数的に一つではないだろうし,一つ自体や〈あるもの〉自体もないだろう.そして,全ての事柄の上に或る一つのものがあるのではないだろうとすれば,理解するということはいかにしてあるだろうか?

[999b27] だが実際,数的に一つであり,諸原理の各々は一つであって,感覚される諸事物の場合に或る諸原理が他の諸原理に属するのと (例えばこの音節が種的に同一であるとき,諸原理は種的に同一である.というのも,それら諸原理も数的には異なるものだから) 同様の仕方であるのではないとすれば,––そのようではなくむしろ,〈あるものども〉の諸原理が数的に一つであるなら,諸々の基本要素を超えて何か他のものがありはしないだろう.というのも,そのような仕方で,個別の事柄,すなわち数的に一つのものを我々は語るのであり,それらの上にあるものは普遍的な事柄だから.それゆえ,ちょうど,仮に音声の数的な基本要素 (音素) が規定されているとすれば,全ての文字は基本要素と同じだけの数であっただろうし,二つでもより多くの数でもないことが必然であっただろうように〔原理についても同様である〕.

要約

T: テーゼ,AT: アンチテーゼ,C: 帰結,Q: 問題含みの帰結.

  • (T) 原理は類的に〔のみ〕一つであるなら,数的に一つではない.
    • ⇒ (Q1) それらを原理とするもの (=万物) は数的に一つではない.
      • ⇒ (Q2) 一つ自体,あるもの自体もない.
    • ⇒ (C1) 全ての事柄の上に一つのものがあることもない.
      • ⇒ (Q3) 何ごとも理解できない.
  • (AT) 原理は数的に一つである.
    • (種的に一つなら,音節と同様である.)
    • ⇒ (Q4) 基本要素を超えたものはない.
      • (∵ 個別の事柄とは,それを超えたものがありはしないものだから.)
    • (⇒ もし音素が数的に一つだったら,文字はそれと同数だっただろう.)

文献注

Madigan の整理は見通しが良い.しかし全部うまくいくわけではない.結局 τὸ ἀριθμῷ ἕν と τὸ καθ᾽ ἕκαστον が各々何なのかが大問題.

  • R: 'ὥσπερ οὖν ...' は elliptical sentence (the principal clause is very easily supplied). Bonitz の Index に用例あり.
  • M: Aporia 6-8 は原理の具体的な候補が検討されたのに対し,ここでは原理の有するべき性質が問われている.
  • M: T ⇒ Q1 の隠れた前提は,「原理 p が属性 a をもつ事物の原因となる ⇒ p も a をもつ」(cf. α1, 993b23-31).
  • M: 論証は3つある.(1) Q2 を導くもの,(2) Q3 を導くもの,(3) Q4 を導くもの.
    • 第1論証は第2, 第3論証と問いの性質が異なる.後者では,属性 x の実例 x1, x2, ... の原理が px1, px2, ... であるとき px1, px2 が種的のみならず数的にも一つかどうかが問われる.特に第2論証は (a) px1 = px2, etc. か否か,第3論証は (b) px1 = x1, etc. か否かを問う.
      • px1 ≠ px2 なら共通の原理 px はない (C1).
    • 他方,第3論証が成り立つには前提に (b) が必要.
      • 数的同一性が (a) (one over many) と (b) (a formal cause) の二通り語られるのは,イデア論が両方の特質を有している点を不整合として突くためだろう.
  • M: τὸ ἀριθμῷ ἕν と τὸ καθ᾽ ἕκαστον (particular) の同一視は変.px1 が τὸ ἀριθμῷ ἕν かつ universal でありうる.反対に particular だとしても τὸ ἀριθμῷ ἕν かどうかは決まらない.
  • M: "Aporia 9 is perhaps the least successful of the aporiae in stating an issue and arguing plausibly on both sides of it." (97)