『メタフュシカ』B4 999a24-b24 (Aporia 8) 個別者を超えたものはあるか

Metaph. B4 999a24-b24 (第8アポリアー).Madigan と Symp. Arist. (Broadie) は未確認.


[999a24] 以上に引き続く,全てのうち最も難しく,観照することが最も必然的であるアポリアーがあり,それについての議論が今や差し迫っている.というのも,もし,個別的な事柄を超えて何かがあるのではなく,個別的な事柄は無限なのであれば,どうして無限なものについての学知を得ることがあってよいだろうか? というのも,何か一個同一なものがある限りにおいて,かつ何かが普遍的に属する限りにおいて,万物を我々は知るのだから.しかし実際,もしこれが必然であり,何かが普遍的な事柄と別にあるべきであるとすれば,諸類は個別的な事柄−−最下位の事柄であれ,第一の事柄であれ−−と別にあるのかもしれない.しかしこれが不可能である,ということを,我々はアポリアーとしたのであった.

[999a32] さらに,何かが質料に述定されるとき,まさしく結合体を超えて何かがあるのだとすれば,万物と別に何かがあるべきなのか,それとも幾つかの事柄とは別にあるが,幾つかの事柄と別にはありはしないのか,それとも何を超えてあるのでもないのだろうか? 

[999b1] すると,もし個別的な事柄を超えては何もありはしないのであれば,感覚的なもの全ての他には何も思惟可能ではなく,また感覚を学知だと言わないとすれば,何ものの学知もありはしないだろう.さらに,何ものも永遠ではなく,不動でもないのだろう (というのも,感覚的なもの全ては滅びるのであり,運動のうちにあるから).しかしながら,およそ何ものも永遠ではないのだとすれば,生成も可能ではないだろう.というのも,何らか生成するものや,〈そこから生成するところのもの〉があることは必然であるが,〔生成が〕止まるものであり,かつ〈ありはしないもの〉からの生成がありえないとする限り,これらの始端が生成不可能であることも必然であるから.

[999b8] さらに,生成と運動があるなら,限界もあることが必然である (というのも,いかなる運動も無限ではなく,むしろ全ての運動には終端があり,〈生成した〉ことが不可能である事柄は,〈生成している〉こともできないから.生成したものは,生成したそのときに,必然的にあるのだ).

[999b14] さらに,もし生成不可能であるということのゆえに質料があるのであれば,いつかその質料になるところの本質存在があるということはなお一層もっともらしい.というのも,この本質存在があるのでも,あの質料があるのでもないだろうとすれば,全くもって何もありはしないだろうし,そうしたことがありえないとすれば,結合体を超えて或るものが−−形ないしは形相が−−あることが必然だから.

[999b17] これに対し,この〔結合体と別に何かがあるという〕ことを措定するだろうとすれば,何の場合についてそれを措定し,何の場合について措定しないか,ということがアポリアーとなる.というのも,全ての場合にではありえないということは明らかだから.というのも,特定の或る家を超えて何らかの家があるとは我々は措定できないから.

[999b20] これらのことに加え,全てのものの (例えば全ての人間の) 本質存在は一つだろうか? だが,それは奇妙だ.というのも,その本質存在が一つであるところのものは,全て一つだから.だが,たくさんあり,様々にあるのか? だが,それも奇妙である.

[999b23] それと同時に,質料はそれらの各々にどのようにしてなるのか? また結合体はどのようにしてこれらの両方になるのか?

要約

  • T: 個別的な事柄を超えて (παρά) は何もない.
    • Q1: 個別的な事柄は無限であるが,それらについての学知を (別個の上位の事柄なしに) どうして得るのか?
  • AT: 結合体を超えて何かがある.
    • Q2: (AT1) 全ての個別的な事柄についてか,(AT2) 幾つかについてか,(T) どれについてもないのか.
  • (T) のとき,
    • (Q1) 学知は成立しない.
    • (Q3) 何ものも永遠でも不動でもなく,したがって生成も可能でない (生成は永遠的なものを始端とする).
    • (Q4) 生成と運動があるなら,限界がある.
    • (Q5) 生成不可能なものとして質料があるなら,形相もあるはず (→ T に矛盾).
  • (AT) のとき,
    • (Q6) (AT1) ではありえない.〈特定の或る家〉を超えて或る家があるとは言えない.
    • (Q7) (結合体を超えてある) 本質存在は,個別の事柄について,一つだけあるのか,多様にあるのか.どちらも奇妙だ.
    • (Q8) 質料はいかにして個別化するのか.
    • (Q9) 質料-形相の結合体はいかにしてできるのか.

訳注

よくわからない点が二箇所ある.

  • 'εἴτε' (999a26) とそれに続く構文.Bonitz, Christ は 27 行目の δ᾽ を削除するが,Ross, Jaeger は保持する (cf. Jaeger Scripta Minora I, pp.257f. (未見)).
  • 'μέν' (999b18) がどこに対応するのか分からない.(上記 (AT1) に対応する (AT2) 側の論点がないからかもしれない.)

文献注

  • Ross: Q4 は「生成には必ず終わり (end) があり,それは永遠であるため παρὰ τὰ καθ᾽ ἕκαστα である」という議論.