『メノン』78b3-79a2 徳は善いものの獲得能力には存しない

Meno 78b3-79a2.

[78b3] ソクラテス それでは,今きみは,「徳とは,善いことどもを望み,かつ,〔獲得〕できることだ」と語っていたのか?

メノン ええ,そう言いましたとも.

ソクラテス では,そう語られる際,望むということは全ての人々にあるのであって,少なくともその点では,或る人が他の人より善いということは決してないのではないか.

メノン そう思われます.

ソクラテス むしろ,或る人が他の人より善いとする限り,〔獲得〕できるということに即して,〔或る人が他の人〕より優れているのだろう,ということは明らかだ.

メノン まさしく.

ソクラテス すると,どうやら,こういうことのようだ––君の議論によれば,徳とは善いことどもを構築する能力のことである.

メノン 全くもって,ソクラテス,あなたが今想定している通りであると,私には思われます.

[78c4] ソクラテス では,それが真実を語っているかどうかも見ようではないか.というのも,君はうまく語っているかもしれないからね.善いことどもを獲得できることが,徳があるということであると,君は主張するのだね?

メノン そう主張します.

ソクラテス 善いことども,と君が呼ぶのは,例えば健康とか財産のことではないか?

メノン 金銀を獲得することも,ポリスにおいて名誉と権力を獲得することも,善いことどもだと私は言います.

ソクラテス 善いことどもと君が言うのは,そうしたものどもに他ならないのだね?

メノン ええ,そうしたもの全てであると私は言います.

ソクラテス いいだろう.では,徳とは金銀を獲得することである,と,父祖以来のペルシア大王の客人メノンは主張する.−−メノンよ,その「獲得」に,君は何かを付け加えるだろうか,すなわち「公正に」とか「敬虔に」といったことを.それとも,君にとってはどちらでも違いがないのであって,誰かがそれらの善いことを不正に獲得するとしても,君は同じようにそれを徳と呼ぶのだろうか?

メノン 決してそんなことはありません,ソクラテス

ソクラテス むしろ悪徳と呼ぶだろうか.

メノン もちろんそうです.

ソクラテス するとどうやら,その「獲得」には,正義や賢慮や敬虔さや,その他徳の何らかの構成要素が付け加わる必要があるようだ.そうでなければ,善いことどもを獲得するとしても,徳ではないだろうから.

メノン そうです,だって,それらなしに,どうして徳となるでしょうか.

ソクラテス 公正でないときには,自身のためにも他人のためにも金銀を獲得エクポリゼインしない−−このこと,つまり欠乏アポリアも,徳ではないだろうか?

メノン そう思われます.

ソクラテス したがって,そうした善の獲得が,欠乏よりもいっそう徳であることはできず,むしろ,思うに,正義とともに生じることが徳であり,そうしたことども全てがないのに生じることが,悪徳なのだろう.

メノン 仰る通りでなければならない,と思われます.

要約

前節では,「誰も悪いことどもを望まない」ということに,ソクラテスとメノンが同意した.これに基づいて,以下のエレンコスが組み立てられる:

  • D: 「徳とは,善いことどもを望み,かつ獲得できることである.」
  • T1: 誰も悪いことどもを望まない = 全ての人は善いことどものみを望む (φαίνεται).
    • T1': したがって,この点で,誰かが誰かより優れていることはない.
  • T2: 徳 (卓越性) とは,それを備える人が備えていない人より優れているようなものである.
  • T3: 或る人が他の人より優れているのは,善いことどもを獲得できるからである (∵ D,T1', T2).
    • D': したがって,徳とは,善いことどもを獲得できることである.
  • T5: 善いもの (金銀など) の不正な獲得は,徳ではなく,悪徳である.
    • T5': 善いものの獲得が徳であるには,正義などの徳の構成要素が伴わねばならない.
  • T6: 不正な獲得をしないことは,徳である (φαίνεται).
  • C: 善いものの獲得は欠乏より徳であるわけではない.むしろ,徳の構成要素が伴うか否かが,徳の有無を決める (∵ T5, T6).

元々の徳の定義 D からより切り詰めた定義 D' を作り,次いで別の諸前提から D' と矛盾する結論 C を出している.

文献注

  • "At the time of Xerxes' invasion of Greece, there were many Thessalians who opposed the pro-Persian policy of the Aleuads of Larisa (Hdt. VII, 6; Paus. VII, 10) ... When the Greeks abandoned Tempe, however, the dissident Thessalians had no choice but to follow the lead of the Aleuads (Hdt. VII, 174) ... The Meno of Pharsalus who was rewarded with Athenian citizenship for sending money and cavalry to support Cimon against Eion (Dem. XXIII, 199) will most probably be the forbear of our Meno who started the special friendship with the royal house of Persia, and thereby caused our Meno to be described as he is in the present passage." (Bluck, 261)