Metaph. Z4 1029b1-2, 13-1030a2.
[1029b1] はじめに,我々がどれだけの仕方で本質存在を規定しているのかを我々は区別し,そしてこれらのうちの或る一つは本質〔それであるとは何であったか〕であると思われたのだから,これについて観照しなければならない.我々はまず第一に,本質について,幾つかの事柄を論理学的に述べよう: 各々のものの本質とは,それ自体に即して語られるもののことである.というのも,君にとっての〈あること〉とは,教養ある人にとっての〈あること〉ではないから.というのも,君は君自身に即して教養があるのではないから.したがって,〔君にとっての〈あること〉とは〕君自身に即してある事柄である.加えて,その全て〔が本質であるわけ〕でもない.というのも,〔本質は〕表面にとっての〈白い〉のような仕方でそれ自体に即してあるものではないから.しかし実際,両者からなるもの,すなわち白い表面にとっての〈あること〉も〔本質では〕ない.なぜなら,それは付け加わったものだから.それゆえ,それを語る説明規定のうちに〔それが〕それ自体に即しては内在しないところの,その説明規定が,各々のものにとっての本質であり,したがって,白い表面にとっての〈あること〉とは,滑らかな表面にとっての〈あること〉であり,〈白い〉にとっての〈あること〉と〈滑らか〉にとっての〈あること〉は一個同一である.
[1029b22] 他の諸カテゴリーに関しても,複合的なものはあるのだから (というのも,或る基礎に置かれるものが各々のものにあるから.例えば質・量・時・場所・運動の点で),一体これらの各々の本質の説明規定があるのかどうか,またこれらにも (例えば〈色白い人〉にとって) 本質が成立するのかを考察しなければならない.その名前を「コート」としよう.コートにとっての〈あること〉とは何か? −−しかしながら,これはそれ自体に即して語られる事柄のうちにありはしない.−−だが,「それ自体に即してありはしない」は二通りに語られるのであり,そのうち一方は付加からなるが,他方はそうではない.というのも,一方は,定義されるものそれ自体が他のものに付け加わっていると語られるが−−例えば〈白い〉にとっての〈あること〉を規定するときに,白い人間の説明規定を述べるような場合のように−−,他方は,他のものがそれに〔付け加わっていると語られる〕から−−例えば「コート」が白い人間を意味表示し,ひとがコートを白いものだと規定する場合のように.「白い人間」は白い一方で,しかし白にとっての〈あること〉が本質なのではないのである.
要約
- 本質存在の候補として,次に本質を検討する.まず論理学的に論じる.
- 本質は,それ自体に即して語られるものである.(e.g. 君の本質は教養ある人の本質とは異なる.)
- だが,その全てではない.(e.g. 表面の本質は白の本質とは異なる.)
- 〈白い表面〉も表面の本質ではない (付加からなるから).
- 〈本質存在+他のカテゴリー〉(e.g. 色白い人) の本質の説明規定はあるか.
- 色白い人を「コート」で指示するとき,コートはそれ自体に即して語られはする.
- そうでない二パターンのどちらにも当てはまらないから: (i) X+Y は X の本質ではない.(ii) X は X+Y の本質ではない.
- 色白い人を「コート」で指示するとき,コートはそれ自体に即して語られはする.
文献注
- B.: (a) 'λογικῶς' (logically と transliterate する) という修飾は何を意味しているのか,(b) 「論理学的」段階はどこまで及んでいるのか.
- (a) Phys. III 3. 202a21-22 の「論理的」アポリアの意味について Simpl. は三通りの解釈を提示する: (1) 通念に基づく,(2) 経験的事実に基づかず専ら言論により説得する (cf. ゼノンの運動論駁),(3) より一般的な (多くのものに当てはまる) 前提から論じる (cf. Phd. の反対者に基づく魂の不死の証明 −− Phdr. における魂の定義から出発する論証に対して).
- ここから (b) にも答えられる.Ross は 1030a27 までで区切るが,M. Woods はその区切りの解釈は誤っていると論じる.Simpl.-Alex. の「論理学的 / 非論理学的」の区別は Ross に不利である.B. はむしろ Z4-6 の議論が logical だと考える.
- この提案は「幾つかの事柄を論理学的に」述べるという一節とうまくかみ合う.
- 他方,アンドロニコス的な「予備学としての論理学」という意味とも平仄が合う.Z5 を読むためには Cat. 1-8 を理解している必要があり,Z4 を理解するためには APo. 冒頭を読む必要がある.第5章で論じるように,Simpl. 的な意味と Andr. 的な意味はきわめて密接に関連している.