『ティマイオス』69d6-70d6 魂の諸部分および心臓と肺の配置

Tim. 69d6-70d6.


[69d6] そしてまさしくこれらのゆえに神的なものを––全くの必然である場合を除いて––穢すことを神々は恐れて,死すべき種族を神的な種族と引き離して,身体のうちの別の住まいへと住まわせました––頸部,すなわち頭と胸の境界に仕切りを作り,首を間に立てることでそうしたのです,両者が離れるように.そして胸といわゆる胴体のうちに魂の死すべき部分を結びつけました.魂のうち一方はより良く,他方はより劣ったものに生まれついているので,胴体の空洞に仕切りを作り,ちょうど女達の住まいと男達の住まいを引き離して区切るようにして,上腹部については,その中間に隔壁を置いたのです.

[70a2] さて,魂のうち勇気と気概に与る負けず嫌いの部分を,神々は上腹部と首の間の頭により近いところに住まわせましたが,それはこの部分が理性に聴従して,欲求の種族が,城砦からのいかなる指令すなわち言論にも進んで説得されることを欲さないときには,理性とともに力尽くで欲求の種族を抑制するように,そうしたのでした.神々は,心臓,すなわち血管の結び目,四肢全体を猛烈に巡る血液の源泉を,哨所へと配置しましたが,それは,外部から,あるいは内部の欲望からであれ,何らかの不正な行為が四肢の周りで起きていることを理性が伝達して,気概の種族が煮えくり返ったときに,身体のうちの有感である限りのもの全てが,急速に全部の隘路を通って,勧告と脅迫とを感じ取り,全面的に耳を傾け追従するように,またこのようにして最良のものがこれら全てのうちで支配するのを許すように,そうしたのです.

[70c1] そして,恐ろしいことの予期や怒りの目覚めにおける心臓の弾みについては,激怒する部分のそうした膨張全てが火によって起きるであろうと神々は予め認識していたので,補助となるものを案出し,肺という種類を植え付けました.それは第一に柔らかく血の気がないもので,次に,海綿の孔のような突き通された孔を内部に有していますが,それは息や飲み物を受け入れて心臓を冷却し,休息と安楽をもたらすためなのです.実際このことのゆえに,神々は気管という配管を肺まで切り開き,緩衝材のように心臓の周りに肺を巡らしましたが,それは,怒りが心臓のうちで頂点に達したときにも,反発しないものに向けて弾み,冷やされるのであり,苦痛がより少なく,気概とともに理性に仕えることができるように,そうしたのです.

概要

神々による身体の構成 その目的
頭と胸の間に首を作る 魂の神的な種族と可死の種族を引き離すため
胴体の中間に横隔膜を作る 可死の種族のうち優れたものと劣ったものを引き離すため
気概的な部分を胴体の上方に置く 気概的な部分が理性に従い欲求的な部分を掣肘するため
心臓を「哨所」に置く 魂の気概的な部分に血管を通じて身体の有感な部分全体を支配させるため
柔らかく孔がある肺を心臓の周りに作る 肺が息や飲み物を受け入れて心臓を冷却し火が引き起こす動悸を和らげるため

訳注

  • OCT に従い ἅλμα μαλακόν A Y Gal. (A.-H.) ではなく μάλαγμα Longinus Alcinous を取る.A.-H. は “Plato might very well say ‘a soft leap‘ for ‘a soft place to leap upon’”と (ほぼ無根拠に) 述べるが,Taylor はにべもなくこれを斥けている.

文献注

  • A.-H.: τῷ καλουμένῳ θώρακι は解剖学の専門用語であることを示している.日常語でいう στέρνον に対応する.種山:「胸郭」.〔だが,ここに可死の種族が置かれ,その「中間」に横隔膜があるとすると,これを胸郭と解したのでは平仄が合わないように思う.Taylor も ‘the whole cavity of the trunk’ と解する.〕
  • A.-H.:「男の住居と女の住居」はこの場限りの直喩でしかない.
  • A.-H.: ‘σφοδρῶς’ からガレノスはプラトンが心臓を専ら動脈系の循環の ἀρχή と見なしたと推論したが,証拠として弱い.動脈と静脈の区別を知っていた証拠は他にない.なおアリストテレスも知らなかったと思われる.
  • A.-H.: 肺に関するプラトンの見解の比較解剖学に基づく批判は PA III 6 に見られる.もっともアリストテレス自身肺の機能については詳らかにしない.(その他 HA I 16, PA III 3.)
  • C.: θυμός ... answered to the lower class of guardians in Plato’s commonwealth ... mentioned in Socrates’ recapitulation at 17D.
  • C.: Cf. De An. I 1 403a, 怒りに関する弁証家と自然学者の説明.ここの説明は両側面を兼備する.
  • C.: Onians が指摘するごとくプラトンの理性/気概とホメロスの ψυχή / θυμός には一定の対応がある.