『メタフュシカ』E3 偶然性の起源

Metaph. E3.


[1027a29] 諸原理や諸原因が,生成し消滅していることなしに,生成しえ,消滅しうるものであることは,明らかである.というのも,そうでなければ––生成するものと消滅するものの付帯的でない原因が何かあることが必然的であるので––,必然的に全てのものはあるだろうから.というのも,このものはあるだろうか,あらぬだろうか? これが生成していたら〔,それはある〕.だが,〔これが生成してい〕なければ,〔それがあることは〕ない.それがあるのは,他のことがあるときである.そしてこのようにして,時間が有限の時間からつねに取り去られるなら,今へと到達するだろうし,したがって,このようにして,「彼が外出したなら,彼は暴力によって死ぬ,外出するのは,渇きを覚えるからであり,渇きを覚えるのは,他の事柄があるからである」.そしてこのようにして今が属するところか,生成したものの何かへと到達するのである.例えば「渇きを覚えたときに.−− 渇きを覚えるのは,塩辛いものを食べるときである」.塩辛いものを食べることは成立するか,しないかである.したがって必然的に,死ぬか,死なないかである.同様にして,何かが生成するものへと躍り出るとしても,同様の議論が成り立つ.というのも,既にこれが (私が言うのは,生成したものが,ということだが) 或るもののうちに帰属するから.それゆえ,必然的に,全てのものはあるだろうものであろう.例えば動物が死ぬことが.というのも,既に何かが生成したものであるから.例えば,その内に反対のものどもが〔既に生成している〕.だが,病によってか暴力によってかはまだ〔必然的ではなく〕,むしろこれが生成したなら〔必然的になるのだ〕.したがって,或る原理までは進むのだが,この原理はもはや他の事柄へと〔進むことはない〕.それゆえ,これが,偶々どちらかであることの原理であり,生成そのものの他の原因はありはしないのだ.だが,どのような原理,どのような原因へと,このような還元アナゴーゲーが向かうのか,質料へか,〈それのために〉へか,動かすものへか,ということが,最も探究されなければならないことである.

要約

  • P が Q の原因であるなら,P が生成している ⇔ Q がある.
  • このようにして,ある事象 P について,P ← A1 ← A2 ← ... ← An と原因を遡ることができる.
    • An が成立した時点で,P があることは必然的になる.
  • それゆえ,かりに原因が全て既に生成しているとすれば,全ての事象は必然的となってしまう.〔これは E1-2 の結論に反する.〕
    • したがって,原因は,現に生成することなしに,生成しうるものであることができる (i.e. 生成するかどうかが (他の原因によって) 決まっていない).
    • この最初の原因が質料因・目的因・始動因のどれであるかは重要な問題である.

文献注

Ross, Kirwan ともに a29ff. を根拠に原因が instantaneous か否かというところを論点と見なしているが,いまいち眼目を理解できていない.

  • Ross: 付帯的な事柄とはその成立が本質に存しない事柄のことであるため,最後の原因列挙において形相因は省かれている.
  • Kirwan: 一番ましな解釈によれば,次のような論証になっていると思われる.(e には以下の対抗解釈がある.e2: 生成に時間のかかる事柄は,常に・必然的に x の種類の事柄の原因となるような種類の原因を有する.e3: ……有するか,或いはいかなる原因も有さない.)
    1. 全ての事柄がいつでも必然であるわけではない.
    2. 或る時に原因を有する事柄は,その時には必然である.
    3. 或る事柄は或る時に原因を有さない (∵ a, b).
    4. 或る原因はいかなる時も原因を有さない (∵ c, 原因は結果に先行する).
    5. 生成に時間のかかっている事柄は何であれ,いつでも原因を有する (1027a31-2).
    6. 生成に時間のかからない原因がある (∵ d, e).
    7. 或る原因の生成は瞬間的である (∵ f, 原因は永遠的ではない).これが本章の結論である.