『ティマイオス』69a6-d6 知性的原因の側から手短に再論する
Tim. 69a6-d6.
[69a6] それでは,我々工作者にとって材木である限りの,いまある諸原因の類が濾されて手元にあり,これらから未だ残っている言論が織り上げられねばならないのですから,再び始めへとただちに立ち戻り,そこから出発して我々がここに到達したところの,その同じところへと素早く進んで,いますぐ,物語に調和した頭と終わりとを,既に述べたことどもに仕上げに付け加えることを試みましょう。
[69b2] すなわち,最初にも語られたように,無秩序であったこれらのものについて,神はその各々のうちに,自分自身に対する,また互いに対する諸々の調和をつくったのであり,ありうる限りのそうした調和の点で,またそうした仕方で,かの無秩序にあったものが類比的で調和したものであることができたのです。というのも,そのとき,偶然にでなければ,それがこれらの調和のうちの何かに与ることもなく,また今名付けられたものども――つまり火や水や何か他のものども――の何一つとして,言及に値するものとして名付けられるべくもありませんでした。しかしこれら全てを神は最初に秩序付け,そしてこれらからこの万有を構築しました――可死の生き物と不死の生き物全てを自らのうちに有する一つの生き物をです。そして神的なものどもについては,神は自らその製作者となったのですが,可死のものどもについては,それらの生成を製作するよう,彼自身が生み出したものどもに命じたのです。この模倣する者たちは,魂の不死なる原理を受け継いで,その次に,可死の身体を魂の周りに成型し,また全ての身体に乗り物を与え,かつ魂の他の種類,つまり可死の種類を,その身体のうちに付け加えて組み立てていました。この種類は,恐ろしく必然的な諸々の受動状態を自らのうちに有していて,第一に快楽,すなわち悪への最大の誘因,次に苦,すなわち善いことどもからの逃避,さらにまた大胆さと恐れという無思慮な助言者ども,宥めがたい憤怒,惑いやすい期待,がそれなのです。これらが理のない感覚や何でも試みたがる情欲と混ざり合い,必然的な仕方で,死すべき種族を組み立てたのです。
要約
- 第一部で採られた方式で宇宙製作のミュートスをまとめ直す。
- 神は無秩序から四元素などを作り出し (29d7ff.),それをもとにして,不死/可死の生き物を包括する万有を構築した。
- 不死の生き物は神が作り (38b6ff.),可死の生き物は下位の神々が作った (40d6ff.)。
- 下位の神々は魂を受け取り,それに可死の身体 → 身体の乗り物 → (必然的受動状態を有する) 可視の魂,を作った (41d4ff., 44d3ff.)。
文献注
- Archer-Hind:
- 'οὔτε τὸ παράπαν ὀνομάσαι': another shaft aimed at Demokritos. cf. 53b.
- 'ἄλλο τε εἶδος ... τὸ θνητόν': これと θεῖον な種類との区別は Resp. の λογιστικόν / ἄλογον の区別に一致する。
- Taylor:
- διυλισμένα (A2, F) を採り διυλασμένα (Y, cf. Bekker etc., A.-H.) を採らない。「前者は late word である」(A.-H.) という主張には充分な根拠がない。また後者は,'sorted out' の意味に解されているが,late どころかそもそも他のどこにも登場しない。
- 'ἀτάκτως ἔχοντα' have to be taken as if governed by συμμετρίας ἐνεποίησεν. 本来 συνεκεράσατο ないし συνεστήσατο とするつもりで書きはじめたのに,途中で συμμετρίας ἐνεποίησεν という等価な表現に置き換えてしまい,結果として絶対対格の形になった。
- 'ὅσον μὴ τύχῃ' に (A.-H. のように) デモクリトス批判を見るのは誤り。むしろ自然学者全体,就中エンペドクレスが標的 (cf. Leg. 889a4ff.)。
- 'ὄχημά': cf. Phdr. のピュタゴラス的ミュートス。ただしここでは身体がそれだと言われている。
- 'θάρρος καὶ φόβον': 各々 ἡδονή と λύπη の一種。〔この解釈は 'ἔτι δ᾽ αὖ' という導入の仕方と平仄が合わないように思われる。〕
- 'ἐλπίδα δ᾽ εὐπαράγωγον': 'hope that lightly leads astray' (A.-H.) ではなく 'fancy, easily led astray'.〔εὐπαράγωγος の解釈のみ受け入れておく。ἐλπίς はここでは中立的な expectation よりは色を付けて考えてよいのではないか。〕
- 'ἐπιχειρητῇ παντὸς ἔρωτι': 'love that ventures all things' (A.-H.) ではなく 'dare-devil lust'.