『自然学』II 3 #1 原因の諸種とその形式的性質

Phys. II 3, 194b16-195a26.

先行研究のまとめにすぎない注は「文献注」と呼ぶことにする*1。また Couloubaritsis は当面は訳文だけ見ることにする。


[194b16] 以上のことが規定されたので,諸原因について,それらがどのようなものか,数はどれほどあるかを,精査しなければならない。というのも,理解するために本論考はあるのであり,各々について〈何ゆえ〉を我々が把握する前に予め各々を理解しているとは我々は考えないので (というのも,〈何ゆえ〉を把握することが,第一の原因を把握することだから),我々は〈何ゆえ〉の把握を生成・消滅や全ての自然的変化についてなすべきであることは明らかである––それらの諸原理を知りつつ,探究されるものの各々を諸原理へと還元しようと試みるという仕方で。

[194b23] さて,一つの仕方では,内属するそれから何かが生成するところのそれが原因であると語られる。例えば青銅が鋳像の原因であり,銀が鉢の原因であり,そうしたものの諸々の類がそうである。形相ないし範型がもう一つの原因であると語られる。これは〈それであるとは何であったか〉の説明規定やその諸々の類 (例えば一に対する二がオクターヴの原因であり,総じて数がそうである) や説明規定の内にある諸部分である。さらに,そこから変化や静止の第一の始まりがあるところのもの,例えば意志する人が原因であり,父が子供の原因であり,総じてなすものがなされるものの,変化させるものが変化するものの原因である。さらに目的としてのものも原因である。目的とは〈それのためにあるそれ〉であり,例えば健康が散歩の原因である。というのも,「何ゆえに散歩するのか?」––我々は「健康であるために」と答え,このように言うとき原因を与えたと我々は考えるから。そしてまた,他のものが動くとき目的の中間で生成する限りのものどもも原因である。例えば,痩せていることや清めや器具が健康に属するように。というのも,これら全ては目的のためにあるのであり,互いと,一方が働きであり,他方が道具であるという仕方で異なるから。

[195a3] さて,諸原因はおおよそこれだけの数の仕方で語られる。諸原因は多様に語られるので,同じものにも複数の原因が付帯的でない仕方であるということが帰結する。例えば鋳像制作術と青銅が鋳像の原因であり,異なる何かに即してではなく鋳像である限りでそうなのだが,しかし同一の仕方でそうなのではなく,一方は質料としての,他方は運動がそこからあるものとしての,原因なのだ。或る原因は相互のものの原因でもある。労働が強壮さの原因であり,強壮さが労働の原因であるように。だが同じ仕方で原因であるわけではなく,一方は目的としての原因であり,他方は運動の始まりとしての原因なのだ。さらに,反対のものどもにも同一の原因がある。というのも,このものの原因である臨在するものを,それが不在のときにも,我々は時おり,反対のものの原因だとするから。例えば舵取りの不在は船の転覆の原因であり,舵取りの臨在は安全さの原因である。今述べられた原因全てが,極めて明らかな四つの方式に当てはまる。というのも,音節の字母,人工物の素材,火や諸物体のうちのそうしたものども,全体の諸部分,結論の諸基礎措定が,〈それからなるもの〉としての原因であり,これらの或るものは基礎に置かれるものとして (例えば諸部分),或るものは〈それであるとは何であったかということ〉,すなわち全体や結合体や形相としての原因である。種や医者や意志する人や総じてなすものは,全て変化や静止の始まりがそこからあるものである。他方或るものは,目的として,他のものどもの善である。というのも,〈それのためにあるそれ〉は,最善であり,他のものどもの目的であることを望んでいるからである。それを善いと言っても,善いと思われると言っても違いはないとしよう。

要約

  • 生成消滅や変化の理解を本論考は目的とする。ゆえに (原理への還元の試みを通じた) 原因把握を行う必要がある。
  • 以下の四つが原因であると語られる。
    1. 質料因 (τὸ ἐξ οὗ γίγνεταί τι ἐνυπάρχοντος): 青銅 → 鋳像, → 鉢。
    2. 形相因 (τὸ εἶδος καὶ τὸ παράδειγμα) = 本質の説明規定 (ないしその一部): オクターヴ
    3. 始動因 (ὅθεν ἡ ἀρχὴ τῆς μεταβολῆς ἡ πρώτη ἢ τῆς ἠρεμήσεως): 意志する人〔→ 行為〕, → 子供。
    4. 目的因 (τὸ τέλος, τὸ οὗ ἕνεκα): 健康 → 散歩。
      • 働き–道具関係が目的に至るまで連鎖しうる。
  • 以上の諸原因の形式的諸性質。
    • 同一のものに複数の原因がありうる: 鋳像制作術 (始動因) & 青銅 (質料因) → 鋳像。
    • 原因関係は相互的でありうる: 労働 (始動因) → 強壮さ強壮さ (目的因) → 労働
    • 反対のものに同一の原因がありうる: 舵取りの不在 → 船の転覆,舵取りの臨在 → 航海の安全。
    • 四原因は網羅的である (ことが候補をリストアップすると明らかになる)。
      1. 質料因: 字母,人工物の素材,元素,全体に対する部分,結論に対する前提。
      2. 形相因: 全体,結合体,形相。
      3. 始動因: 種,医者,意志する人,なすもの全般。
      4. 目的因: 何かにとっての善 (ないし善と思われるもの)。

文献注

  • R.: 「第一の原因」: = 近接原因。
  • R.: 「あるいは範型」(b26): これほど明瞭にプラトニックな語法を用いているのは初期のみである。
  • Ch.: "We might say that the doctrine [of the 'four causes'] is intended to have both heuristic and therapeutic value ... therapeutic in that it removes difficulties which might confuse us if we thought that all explanatory factors must explain in the same way" (99). ]
  • Ch.: "... it is misleading to call Aristotle's sources of change efficient causes (we would not call injustice the efficient cause of a murder) and wrong to think of them as Humean causes" (101). Hume の場合とは異なり,現実的な原因は同時的。

*1:Detel の『後書』注解が allgemeine / spezielle Anmerkungen とは別に bibliographische Anmerkungen を立てているのに倣った。