今週読んだ本
- ソル・フアナ『知への賛歌: 修道女フアナの手紙』旦敬介訳,光文社古典新訳文庫,2007年。
- ガブリエラ・ミストラル『ガブリエラ・ミストラル詩集』田村さと子編訳,小沢書店,1993年。
- アレホ・カルペンティエル『この世の王国』木村榮一・平田渡訳,水声社,1992年。
『知への賛歌』
17世紀後半のメキシコの詩人ソル・フアナの詩と書簡の短い選集。詩人のプロフィールや収録されたテクストの性質については訳者解説にくわしい。書簡はとくに面白く,被った批難に対する弁明を主旨とするはずが,脱線に脱線を重ね,半ばは社会批判や学問論,半ばは自伝の性格を帯びる。かつ自伝の内容はそれこそ詩人か小説家の空想に登場するたぐいの天才像を地で行く。「ある機会に,おなかのひどい事故があったせいで,お医者さんたちに勉強を禁止されたことがあり,私は数日間その通りにして過ごしたあとで,彼らにこう言ったほどです――私に勉強を許してくれたほうがまだ害は少ない,なぜなら,私の思弁はあまりに強力で激しいため,四分の一時間ほどのうちに,四時間かけて本で勉強するよりももっと鋭気をすりへらしてしまうのだから,と。」(126頁)
『ガブリエラ・ミストラル詩集』
チリの詩人ガブリエラ・ミストラル (1889-1957) の詩とエッセイの選集。
『この世の王国』
テンポ良く巧妙な叙述。ハイチ史の織り込み方を含めて,死せるシュルレアリスムの対立項として序文で掲げられた〈現実の驚異的なもの〉の理念の概ね明快な例証となっている。但し凡庸さというよりはおそらくは方法論そのものの未成熟のゆえに,特に終盤の描写は当の理念を裏切っているように思われる。