13世紀のトピカ受容 Green-Pedersen, "On the Interpretation of Aristotle's Topics in the 13th Century"

  • N.J. Green-Pedersen (1973) "On the Interpretation of Aristotle's Topics in the 13th Century." Cahiers de l'Institut du Moyen-âge grec et latin 9, Copenhague. 1-46.

Slomkowski, Aristotle's Topics で言及されていたので手に取ったが,正直専門的すぎてよく分からなかった。一応読んでしまったので簡単にメモを残しておく。なお後半には若干のラテン語テクストが附録に添えられている (読んでない)。


ダキアボエティウス*1の注解を刊行するにあたり,いくつか関連する注解を読む必要があった。その補助的な研究成果を公表する。

I. 用いた注解とその形式

  1. アルベルトゥス・マグヌスによるパラフレーズ,1256-1270?
  2. ロバート・キルウォールドビの Scriptum super libro Topicorum, lectiones 形式,13c中葉。
  3. Adenulph of Anagni の Notulae Topicorum, lectiones 形式,1250-70?
  4. ダキアボエティウスQuaestiones super librum Topicorum, quaestiones 形式だがパラフレーズを含む,1269-74年。
  5. Elias, Sententia libri Topicorum, expositio, ボエティウス以降。
  6. Simon of Faversham*2, Sententia libri Topicorum Aristotelis, expositio, 1275-80?
  7. Henricus de Bruxella, expositio やパラフレーズ,lectiones, 恐らく13c末。
  8. Radulphus Brito, Quaestiones supra Topica Aristotelis, quaestiones 形式,1295年以前。
  9. Angelo of Camerino, Sententia libri Topicorum, expositio, 1296年以前。

どれもボエティウス*3の翻訳を用いている。

II. アリストテレスのトピカとボエティウスDe differentia topicis

両書は共に読まれ,授業に用いられた。自然,両者の違いが議論になった。

上記の注解のうち4つがこれを論じており,どれも同じ解答を示している。すなわち,「locus は二つの仕方で考えられうる: (1) ボエティウスがしたように,その constitutio に応じて。(2) アリストテレスがしたように,その usus (applicatio, operatio) に応じて。」他に De diff. top. のいくつかの注解も同様のことを述べている。関連して,「ボエティウスlocus と呼ぶものをアリストテレスが consideratio と呼んでいるのは,consideratio が用法に応じて考えられる限りの locus に他ならないからだ」という説明もなされた。しかしアリストテレスのテクストに術語としての consideratio は見当たらない。トポスを立てるときの "See (considerandum) if the other part says..., then do..., because..." という語法から来る解釈と思われる。キルウォールドビは,こうした相違をもとに,アリストテレスボエティウスより 'naturaliter posterior' である,と結論する。

我々は,非アリストテレス的な教説を〔注解において〕目にした場合,De diff. top. から取られてアリストテレスに適用されたものと予想すべきである。例えば inventio と iudicum ないし resolutio との区別がそうである。

III. Predicabilis と predicabilia

今日では『トピカ』の4つの predicables (術語様式) について語るのが普通だが,中世においては,『トピカ』との関連では praedicabile という語は用いられず,むしろ praedicatum のみ用いられる (praedicabile は『イザゴーゲー』の quinque voces に関してのみ用いられる)。例えばキルウォールドビの注解においては,praedicatio の区別として in propositione sive conclusione なものと in linea praedicamentali なものとがあり,前者が praedicatum, 後者が praedicabile とされる。

IV. テクストの議論の興味深い点いくつか

  1. Praedicata と annexa (1巻5-7章).
  2. Dialectica docens と utens = 1巻 / 2-8巻.
  3. Loci intrinseci と extrinseci (2-3巻) = loci ex oppositis / loci of many kinds.
  4. Idoneitas.

*1:cf. 山内志朗『普遍論争』d-110f. 以降,人名表記は同書の「中世哲学人名小辞典」に従い,記載がない場合ローマ字表記する。

*2:知らない人だったが SEP に記事があるので有名なのかもしれない。

*3:紛らわしいがより有名なほう。以下,13世紀のボエティウスはつねに「ダキアの」と付けて区別する。